探偵日記

探偵日記 3月14日金曜日曇り

今日はホワイトデー、しかし夕方から予定があり、浮世の義理は機能までに終えた。10時半、報告のためホテルオークラで依頼人と面談。そのあと事務所へ。

昨日、歌舞伎町の喫茶店で古い友人と会った。少しだけ仕事の絡みもあったが、いわゆる遊び友達で終始し、およそ30年近く歌舞伎町を走り回った仲間である。当時から今日まで、妻の弟が経営する会社の幹部として、リストラの心配もなく過ごしたが、1年前職場で倒れ、以来、週3回透析を受けるようになっている。家庭は妻と二人暮らし。男の子3人もうけたがいずれも独立して別居している。勿論孫もあり、平均的な人生を送ってきた人のように思って見ていた。コーヒーを飲みながら突然、「実は2日前に離婚したよ」と言う。彼はこれまで家庭のことや奥さんについて話すことがなかったので、どんな女性なのか分らなかったが、たまに家に電話すると、(娘さんかな)と思うぐらい若々しく可愛い声の奥さんだった。(どうして)僕が聞くと、「俺も何がなんだか判らないが、どうしても別れたいって言うから応じてやった。」と言い、何で今更なんだろうね。と、当の本人が訝しがるほど唐突な申し出だったようだ。しかし、何も言わないで離婚届に判を押した彼の心情は良く分る。我々はそういう教育を受けた。妻、或いは女性のほうから別れ話を切り出されあれこれ言うのは男の沽券にかかわる。というのが僕や友人のポリシーである。

友人は、ねえ聞いてよ。と言って次のような状況を話してくれた。「2月8日の大雪のあくる日、こんな雪じゃあ出掛けられないなあ、と独り言を言ったら、女房が血相を変えて、それは困ります出て行ってください。って言うんだ。俺が、いや今日はやめる。と言うと、女房が、じゃあ勝手にしてください。でも、お昼も夕食も作りませんから。」と言って、結局、大雪の中、自宅近くのコンビニで弁当を買って過ごしたそうな。その際、奥さんは、(鬱陶しいから出て行って)とも言ったらしい。次の週、また大雪に見舞われたが、朝玄関を見ると長靴が置いており、「外出してくれ」と言わんばかりの態度で相対した妻を見て、友人も決心したようだ。離婚したならば、会社にもいられなくなることは目に見えている。しかも障害者手帳を持っている夫に三行半を突き付け(出て行け)はないだろう。友人は役所の福祉課に赴き、(生活扶助)の相談にも行ったらしい。

話を聞きながら、うそ寒くなったが、帰宅して我が女房にその話をすると、「それは彼が悪いわよ。奥さんの変化に気付かず好き勝手な生活をしてきたんでしょう」と、何ともそっけない。それで、では、もし自分がその立場になったらどうだろう。と、考えてみた。もしかしたら、我妻も虎視眈々とその機会を窺っているのかもしれない。しかし、もしそうなったら、僕は、ひと言(了解)と言って、さっさと出て行くだろう。例え橋の下に寝るようなことになっても。

最近は、男女ともに情のないことをする。友人は「48年の結婚生活がなんだったんだろう」とぼやいていたが、友人の奥さんは(積年の恨み)を、こんな形で果たしたのだろうか。わが身の将来のためにも是非聞いて見たいと思った。今日は夕方から調査に参加する予定。僕がマルヒを良く知っているから。というのがその理由。天気予報を聞くと、夜になると冷え込むらしい。案外体の弱い(笑)僕はコートを着て、暖かいマフラーで家を出た。