探偵日記 5月7日木曜日 曇り
長いようで短かったGW休暇も終わり今日から平常どおり出勤。お土産等荷物があるので車で出る。事務所について、何時ものように御苑の駐車場に行くとお休みで入れない。仕方なく伊勢丹の駐車場へ駐めてから事務所に行く。
久しぶりの事務所だが特にこれといった変化も無く静かだ。最近は、依頼の問い合わせがあり、見積もり等を作成したり相談に乗ったりするが受件に結びつかない。試算する料金が高いのかな。とも思うが他の事務所に比べて特別高いことはなく、むしろ良心的な設定にしているはずだ。(安かろう悪かろう)ではないが、我が業界はまだまだ整備されていない部分があって、玉石混合である。まあ、こんな時期もあるだろう。と考える。
Mという女 11
経理担当の役員は、東京に行きっぱなしで月に一度か二度しか顔を出さない若社長の出金の多さに仰天した。確かに、いくら使おうと創業家の社長の勝手であろうが、その額があまりにも高く、浪費を責めるより前に(何に使っているのか)不審を覚えた。東京というところは生き馬の目を抜く。と言われるぐらい摩訶不思議な世界で、もしかしたら、真面目一方の若社長が悪い連中にたぶらかされているんじゃあなかろうか。否、或いは脅されていることも考えられる。数日、熟考した役員は、伝を頼って、知り合いの警察官から探偵を紹介されて、一日、上京しその探偵と面談した。
某日、東京駅に近いホテルのラウンジで会った探偵は、「犬鳴吾朗」と書かれた名刺を出した。年齢は50歳をちょっとすぎた頃だろう。柔和だが目力のある男で、警視庁の警部の言う(真面目な人だから安心して相談して下さい)との評価に相応しい感触を得た。役員は、大変お恥ずかしい話ですが。と前置きして、何故自分が心配しているか、その経緯を詳しく説明した。といっても、単に金の流れから疑問を抱いた。と言うに過ぎない。もしかしたら、若社長は本来の業務のために投資しているかもしれない。という事も忘れずに付け加えた。黙って聞いていた探偵は、(専務のご心配は良く分りました。お聞きする限りでは大変申し上げにくいのですが、調査の結果が杞憂に終わることは無いでしょう。ただ、例えば反社会勢力の輩、まあ、暴力団絡みという事も無いでしょう)と言って、(とりあえず1週間尾行して、若社長の実際の行動を見ましょう)ということで、調査結果を聞きに改めて上京するという役員と探偵はホテルを後にした。----------