恋愛ごっこ 3

探偵日記 9月18日木曜日 晴れ

今朝は5時起床。タイちゃんを連れて外に出ると、前夜の雨は上がりうす曇りでひんやりとした空気に包まれる。勢い良く飛び出したタイは何時ものコースを元気一杯に歩く。1時間10分後に帰宅。8時に朝食をすませ、白髪染めをして事務所へ。



恋愛ごっこ 3

僕の事務所でも、そのような工作を絶対にしないわけではない。これまで2~3の経験はあるが成功率は60パーセントぐらいだろうか。人の心を変えるのは生易しいことではない。と思う。したがって、このブログをお読みの方々は夢にもそんなことは考えないようにして欲しい。必ず、誰かが大きく傷つく結果になる。

こんなニュースを幾つか見聞きしているうち、多分海外旅行中に機内で見た映画の内容を思い出した。主人公は、ある高名な演出家で、その国でも有名な劇団の主宰者でもあった。まあ、我が国でいえば劇団四季の浅利慶太みたいな人と思って良いだろう。その人が劇団員の女優のMに惚れてしまった。相思相愛というのだろうか、二人は劇団員の誰にも気付かれることなく2年ほど関係を続け、いよいよ抜き差しならぬ心境に追い込まれていった。彼女がせがんだわけでもなく、妻との仲が急激に悪化したわけでもない。しかし、彼は(妻と離婚して彼女と結婚したい)と強く思うようになり日々懊悩していた。

そんな或る日、劇団では中位の立場の男優Oが(先生、少しお話があるのですが時間を作っていただけませんか)と言ってきた。Oは彼が特に目をかけていたわけでもないが演技はしっかりしている。との風評ぐらいは耳にしていた。(何か役を欲しいとでも言うのかな)程度に思ったが、ちょうど彼女故郷に帰っており、虚しい時だったのでその若い男優の話を聞いてみることにした。演出家であり劇団の主宰者でもある彼は自宅の他にプライベートな部屋も持っていた。それはもっぱら彼女との逢引に利用していたが、その日はその部屋に男優を招き入れスコッチを振舞った。

若い男優は恐縮しながらも臆することなく、少しばかり芝居の話をしたあと、思いがけないことを話し始めた。(もし間違っていたらお詫びいたしますが、先生はMを愛していらっしゃるのではありませんか。いえ、このことは僕一人が感じていることで、他の誰も知りません。そして、奥様と離婚したいと思ってらっしゃる。)虚を突かれた格好の演出家は、とっさに、何と応えていいか分からず僅かに「それで?」と言うに留め、Oの次の言葉を待った。Oは、(先生さえ宜しければ奥様を誘惑する役を私に任せていただけないでしょうか。離婚を奥様のほうで希望されれば波風も少なくすみますし、劇団も安泰でしょう。その代り、もし首尾よく行った暁には僕に一度だけ主役を与えてもらいたいんです。)と。-------------------