探偵日記 6月21日金曜日曇り
今朝は4時起き。最近、深酒をしないし、比較的早く休むので早朝の散歩も辛くない。まだ起きてないかな。と思ったらすでに準備万端、ドアを開けると伸びをしながら(僕はどっちでもいいんだよ)という感じで、タイちゃんが出てきた。まだ雨は降っておらず小一時間歩いて帰宅。朝食後、早々に支度して車で出掛ける。事務所に着き、新宿御苑の駐車場に車を停める。この駐車場は都営なので料金が安い。最初の3時間が500円。事務所の横のコインパーキングは10分200円。人の足元を見る商売もある。
銀行預金 2
平成11年4月2日、千葉県市川市の埠頭で、同市でクリニックを営む歯科医Kが事故死した。岸壁のコンクリートの壁に激突したという。警察の調べでも単なる事故で処理されたが、当初より、僕の依頼人は(自殺)といい、状況を聞いた僕もそのように判断した。Kはまだ40歳、美しい妻と可愛い女の子が居る。深夜、そんなところで暴走する理由は見当たらなかった。ただ、方々に債務があるとかで、僕の依頼人にも1億円借金していた。Kの妻は「一円も有りません」と主張、弁護士を立てて債権者と争う構えを見せた。依頼人の貸し方もやや曖昧で、1億円の算出も若干疑問が残った。僕を依頼人に紹介してくれた依頼人の弁護士も、そんな依頼人に一抹の不信感を抱いていたように思えた。とはいっても、受件した案件である。着手金で終わっては意味が無い。僕のほうは(成功報酬)で決め、若干の着手金プラス弁護士の得る成功報酬額の半分。ということにした。したがって、1億円回収できた暁に、約8パーセントの報酬(800万円)を頂ける取り決めを交わしたのである。勿論弁護士から貰うのではなく、依頼人が支払わなければならない。弁護士のほうは16パーセントを得ることになる。
しかし、債務者が死亡し、遺族に支払い能力のない場合、回収は困難が予想された。弁護士もまったく期待していない様子が見て取れたが、僕は、かなりの確立で成功するだろうと思っていたので、早速調査に着手した。その頃には、未亡人を相手に裁判が進行しており、千葉地裁で(依頼人も市川市の住人だった)行われる公判を僕も傍聴していた。被告として出廷する未亡人は、見とれるぐらいの美人である。僕のほうの依頼人といえば、いんちき臭い金貸しそのもの。といった風貌で、被告の代理人(弁護士)を羨ましく思ったものだ。
調査は、通常の資産調査から特殊な手法の調査に切り替えて行っていた。まず、未亡人の尾行を行い、立ち寄り先などを確認。金融機関などを訪れれば、その先の調査が必要になってくる。仮に、未亡人がM銀行の市川支店に行ったならば、取引銀行の一つと断定し、同支店の取引状況を把握する。昨日書いたように、氏名生年月日住所で検索すれば、種別に係わらず全ての預金残高が口座番号と共に判明する。(註、現在は、個人情報保護法により不可)ところが、敵もさる者で、いずれも数万円の残高しか無かった。未亡人もほとんど外出せず、その行動から隠匿資産を発見するのは困難に思えた。僕の事務所では、故人や未亡人の住所地をもとに、範囲を広げて調べてみたが好結果は得られず1ヶ月経過した。-------