取り込み詐欺 2

探偵日記 10月22日火曜日曇り

昨日は久しぶりに花の銀座で飲んだ。17時に会った静岡の弁護士さんは、新幹線で早々に帰ったので、18時過ぎから一人時間を持て余す格好となった。6丁目の風月堂に入り、まず所長に電話し、19時半の待ち合わせをする。その後、クラブの女性二人に電話し、一人とは食事の約束をし、もう一人、ママには(後で行くから)と約束をする。やがて所長(息子)が面白くなさそうな顔でやってくる。ホステスを交えて食事して、20時半同伴出勤。初めて行くクラブだったがなかなか感じの良いお店で、もしかしたらもう一回行ってもいいかなと思う。22時、行きつけの「ラビリンス」へ。由衣ママと冗談を言い合って23時半出る。僕はお供で、所長だけがモテモテの銀座の一夜だった。
今朝は何時もどおり7時半起床。食事の後ちょっと横になって12時前事務所へ。

取り込み詐欺 2

平成に入って間もなくの頃、或る企業からの依頼で杉並区高井戸の会社の信用調査を引き受けた。しかし、着手してみたら実態が良く分からない。実際に会社はその所在地に有って、法人登記もあるのだが登記簿上の目的(その会社がどんな営業を行うのかを決めたもの)に沿った営業活動をしているとは思えない。古いオフイスビルの一室にある部屋には5~6人の男性が出入しているものの、誰一人として営業に出掛けたりしない。ただ、時々、訪問客があり1時間ばかり滞在する。犬鳴は仕方なく奥の手を使うことにした。

10坪しかない事務室に7本の電話回線が入っていて、総て使用されていた。翌日から録音体勢に入る。その内容によれば、全員が色んな会社名を使い分け電話をかけまくっていた。相手先はいずれもメーカーで「御社の製品を購入したい」と言っている。電話を受けたほうは(たなぼた)みたいな話で喜んで承知している。しかも現金決済だ。断る理由がない。仕入れ品は総てその会社が指定する倉庫に運び込まれた。但し、最初は2~30万円の現金決済だったのが、金額がアップするにしたがい手形決済に変わっている。犬鳴が変だと思ったのは、仕入れ品目に脈絡や関連性が無く、手当たり次第に購入している点だ。販売するメーカーも現金から手形に変わったものの(上客)として、手厚く応対している様子が見て取れた。

ただ一社だけは手形に変わった途端、次の取引に応じなくなった。勿論、犬鳴探偵事務所のクライアントである。しかし、その会社もすでに1千万円以上の手形を受け取り、メインバンクで割り引いていた。商取引に手形はつきものである。良く「我が社はオール現金決済で手形なんか使わない」と豪語する経営者がいるが、それはそれで結構なことだが、言い換えれば「我が社は信用が無いので」と言っているも同然なのだ。一般に、その企業が、業歴や業礎、また業積を堅持していれば、おのずと与信は高くなり、取引先は(お手形でも宜しゅうございます)ということになる。販売する側は、それで取引高が上昇することを望む場合もあるし、受け取った手形を自社の支払いに当てる(転譲手形ーー回し手形とも言う)ことも出来るし、取引銀行が割り引いてもくれるのだ。但し、いずれの場合も信用の裏づけが無ければならない。一方。支払いを手形決済する側のメリットは、例えば、90日の手形にした場合、(月末締めの翌月末支払い)最長で150日支払いが猶予されれ、その間、現金を操作できる。

杉並区高井戸の会社は、100社余りから、一ヶ月合計10億円の仕入れを行い、3ヶ月先(90日)の手形で決済しておけば、30億~40億円の現金がプール出来る訳で、不渡りに気づいた販売先が駆けつけたときにはもぬけの空となっている。取り込み詐欺集団は仕入れた商品をばった売り(半値以下で叩き売ることをいう)しても、数ヶ月で20億円あまりを手にすることになる。犬鳴探偵事務所のクライアントは、納入した商品を言葉巧みに引き上げたため被害は少なかったがその他の会社は大きな打撃を受けた。ーーーーーーーーーー