探偵日記 11月02日土曜日曇り
報告書風に書けば、(被調査人の日々の生活はほぼ常同型といえよう)となるぐらい最近の僕の生活はパターン化されている。朝8時に、NHKの朝ドラを見ながら朝食を摂り、差し迫った用事があればすぐにシャワーして家を出る。さもなくば、ご飯を食べた後ベッドでぐずぐずし、10時半ごろ仕度を始める。事務所に行き、血圧や、前日の食事の内容と飲酒の量を記録しランチの時間帯に事務所に居る調査員を誘って昼食。特別な用事が無ければ、3時過ぎに歌舞伎町の雀荘「東舟」へ。2~3時間ゲームして阿佐ヶ谷に帰り、日替わりで馴染みの店に行き夕食を摂る。そしてその後、元気が残っていればカラオケスナックに行って、数曲歌って帰宅。大体この繰り返しで、時々、銀座や歌舞伎町のクラブに顔を出す。はしごは滅多にしない。だから、以前は良く行った銀座のバーなど、正月の7日オープン初日に行ったきり。先日ママからうらめしいメールを貰った。
逃亡 2
マルヒは若い頃一度結婚したようだが、現在は都内の高層マンションで一人暮らしだった。会社の人が管理人に訳を話し部屋を見せてもらったところ、勿論もぬけの殻で、家具など生活用品は総て運び出されていた。ということは、(覚悟の上の計画的な失踪)である。犬鳴が案じた自殺の可能性はほぼ無くなった。関係者の話で、郷里にはまだ母親がいるらしい。実家は北海道の美唄、調査員は早速北海道に飛びレンタカーを借りて数日張り込む段取りをつけた。一方、東京では、出身校の卒業名簿を入手し、在京の同窓生を調査する。いい大人が友人や知人に泣きついているとは思えないが淋しくなって連絡を取るかもしれない。
数日後、北海道の調査員から報告があり、「こっちには帰っていないようです」とのこと、中間報告を兼ねて依頼人の会社に赴き簡単に報告をしたついでに、(同僚や部下で親しくしていた人をピックアップして下さい)と言ってみたが、「こちらで調査した限りではそんな者は居ません」との回答だった。赴任した子会社はともかく長年在籍した本社のほうには誰か居るはずだ。犬鳴はそう思ったが無理に聞くことはやめた。
十年以上前までこの種の案件は100パーセント解決した。方法は支障があるので明らかに出来ないが、人脈を当って、目星をつけれれば1日で結果が出たものだ。犬鳴は思案した後に、会社が給与を振り込む銀行口座を教えてもらい、入出金を調べることにした。マルヒに限らず誰でも銀行預金を持っていて、入れたり下ろしたりする。今のマルヒは入金こそ無いかもしれないが預金を下ろすことはしているはずである。数ヶ月前のこと、子供、といっても30歳の男性の所在調査を引き受けた。幸いなことに、カードはマルヒが持っているのだが、親が通帳を保管していた。早速記帳してもらうと、九州、広島、大阪、和歌山、と転々とし、その先々のATMで数万円づつ引き出していることが分った。そして、直近は名古屋、しかも繁華街のど真ん中のATMで数回下ろし、すでに、可なりの期間滞在している様子がうかがえた。調査員が名古屋に赴き、ATMの前で張り込みマルヒを捕捉、カプセルホテルを定宿にして遊んでいる状況を把握した。
今回のマルヒは普通預金口座に数千万円の残高があり、失踪後一度だけ八王子市のATMで300万円引き出していた。------------