探偵物語 35

探偵日記 8月29日金曜日 曇り

今朝もまた小雨が降っていた。何時ものように高架下まで行ったがタイちゃんが歩こうとしない。彼も味気ない高架下の散歩に飽きたのだろう。かといって、そこを離れると顔に雨がかかる。強引に引っぱって20分少々の散歩を終え帰宅。

今日はクリニックで定期検査の日。10時過ぎに行ってオシッコと採血を済ませ、11時、事務所へ着く。

探偵物語 35

毎週月曜日、協会の事務局に詰める必要が無くなり、またもとの生活パターンが戻ってきた。その気になればやることは一杯有った。平成16年頃、我が国のナンバー2の広告会社から紹介されたという若い人と会うことになって、銀座松屋の4階にある喫茶店で落ち合った。Sは個性的な男でよく喋る。しかし悪い人物ではなさそうで「福田さん、助けてもらいたいんですがある調査を引き受けていただきたいんです」と言う。聞いてみると、彼の仲間で探偵社をやっている人がいて、大事なクライアントから依頼された案件をしくじったらしい。マルヒはやはり探偵社の代表だとか。数日間尾行を行っていたら、相手に感づかれ調査員の一人が殴られたという。まあ、マルヒも探偵の端くれだから普通の人に比べれば多少勘がいいかもしれない。それにしても気付かれて捕まった上に殴られるなんて。と思ったが黙って聞いていた。「神戸の探偵社ですけどご存知ですか」僕は勿論名前は知っていたし、そのマルヒの過去の問題も知っていた。彼がまだ他の探偵事務所で働いていたときのこと。その事務所で大掛かりな案件を受けて、ある違法な調査を行った。ところが途中で相手側に、その違法な工作が知れて、当然ながら事件となって責任者以下逮捕されたのだが、その情報を漏らしたのが今回のマルヒである神戸の探偵社の代表だった。という経緯である。

その探偵の風上にも置けないマルヒの調査を引き受けることにした。同業者の依頼で同業の者を調べる。少し嫌な感じもしたが、紹介者のてまえもあり、また、Sの提示した調査料が破格の金額だったこともある。某日、マルヒが上京するという情報に基づき、調査員が神戸に飛び、東京に着いたあとは別部隊にバトンタッチし、東京での行動を監視することにした。今回のマルヒの上京の目的も変則的なもので、或る財界人のスキャンダルをマスコミに垂れ流す作業を行うためだった。当方の調査料も破格なら、マルヒが手にする報酬も想像を超えるものだろうと思えた。S氏の仲間の探偵社の調査員が手こずった。というので緊張して調査に当ったが(案ずるより生むが易し)マルヒは全くの無警戒だった。-----------------