探偵物語 38

探偵日記 9月4日木曜日 曇り

9月に入ってさすがに30度を超す日はなくなったが、今日などはかなり蒸し暑い。10時、事務所に到着。

昨夜は阿佐ヶ谷駅横にあるホテル「スマイルホテル」1階のレストランで夕飯を食べた。ここは、サンサン会を主催するYさんが経営するレストランで、何時も仲間のたむろする店だ。昨日も、Iさん夫婦、Kちゃんと姪のN嬢、建築金具を販売する店を経営しているSちゃん、不動産屋のH氏とその友人、H氏の同級生Tさん、飛び入りで、下井草で歯科医院を営むSさん、などなど、みんなが持ち込む銘酒を飲みながら和気藹々と過ごす。僕は、この日、休肝日にする予定だったが、とてもそんなことの出来る雰囲気じゃあなくビール1本、焼酎2杯飲んで帰宅。9時にはベッドに入った。アルコールも少量で睡眠もたっぷりとったので目覚めは快適。4時40分過ぎに散歩に出る。

探偵物語 38

営業部長のサボタージュと私生活の乱れを冊子にして報告。ついでに或るテープを聞いてもらった。東京支店の業績が振るわないことや、専務が打ち出したリストラ案が原因で、社内は不協和音が出始め、特に、東京支店に勤務する外様の面々は(いつ切られるか)と、戦々恐々としていた。本社や北陸方面の営業所に勤務する者たちは、多少なりとも経営者側と縁故があったり、何かと親しく交流しているのでさほど危機感が無いが、東京で採用された人たちは縋る術もなかった。ただ、支店長は身近に居る社員が可愛くて、専務に抵抗していた。テープは、その支店長の肉声が入っていた。しかも、専務のことを、(我儘娘で困ったものだ)とか、(何の能もないのに専務などにするから変なことを言い出して)とか、(あの専務では100年続いた我が社ももうダメだ)などとこき下ろしている。僕は、専務と一緒に最後まで聞くのは居たたまれず、(後でゆっくりお聞き下さい)と言ってテープを渡し、今後の指示を受けて早々に退散した。

調査はその後も継続され様々な報告を行い、我儘お嬢様の専務には一定の信頼を得た。彼女は現社長の一人娘で大層可愛がられて育ったようで、僕の目から見ても少々自己主張の強い所があったが、決して(能無し)ではなく、勉強も良くしていた。度量も広く、あんなにこき下ろされた支店長に対し、悪い感情を持つどころか「福田さん、あんな人物も組織には必要なのよ」と言って、その後も彼を優遇した。人間、少しばかり嫌な奴でも擦り寄ってこられれば悪い気はしない。それから間もなく、支店長はすっかり専務派になってリストラを敢行した。

その後も、我が事務所には次々とリクエストが入り大いに助けられたが、時代の趨勢には勝てず東京支店は撤退。ビルの跡地は売却されたが、石川県の本丸は安泰で堅実に推移している。----