探偵物語 37

探偵日記 9月2日火曜日 晴れ

今朝は4時5分、僕の部屋をノックするタイちゃんに起こされる。支度をして外に出るとまだ暗く、前夜からの雨が漸く終わった後で道は濡れていて、出た途端タイが固まる。それでも励まして歩き始め途中から調子が出たらしく1時間10分後に帰宅する。少しゆっくりして12時事務所へ。

探偵物語 37

何時ものことだが盗聴器は発見できず、来週からの調査の打ち合わせをして解散する。調査の目的は東京支店の幹部職員に対する勤務評定と、私生活についてで、事の発端は或る職員の横領が発覚したことや、その始末を進める過程で本社が疑念をもったため、良い機会だから一通り自浄作業をしてみようというものだった。バブルが崩壊して10年経ち、各企業がやっと立ち直りかけていた頃である。普通ならそんな調査に予算を組めない経済状況なのに、依頼人の会社は思い切った金額を示してきた。僕のほうに異存あるはずも無く早速調査に着手した。まず指定されたターゲットは、取締役支店長。横浜の山の手に自宅があり通勤は社用車を利用していた。もうかなりの年齢で、家庭は古希に近い妻と出戻りの娘が同居していた。

社用車両と支店長の自宅に特殊工作を施し、実際の尾行調査は軽く行った。案の上というか、年齢的にももう悪さをする年ではなく、築地に有る支店を出ると何処にも寄らず帰宅する毎日だった。変な話だが、変わり映えしない結果は探偵にとって面白くないし、それが長く続くと消化不良になる。やはり依頼人に報告する時、「これは」というものが欲しい。とはいっても、むやみに捏造できるはずも無く、仕掛けることも出来ない。ただ、事実を報告するしかない。ところが、併行して行っている営業部長のほうは盛り沢山で、妻と別居しており、会社に届けてある住所には帰らず、若い女の部屋に転がり込んでいたし、消費者金融に年収分ほどの借り入れがあった。毎日きちんと出勤はするが、会社を出たらパチンコ店に直行。午後になると女性の部屋に戻って、夕飯を済ませた後、彼女が勤務するクラブに同伴出勤する。したがって、会社には出勤するが帰社せず、調査した2週間全く仕事はしていない状況が明らかとなった。彼は支店長のお気に入りで、何をしてもお咎めなし。だった。

20日経って中間報告をしたい旨を告げると、待っていたように、時間と場所を指定してきた。--------------------