探偵物語 39

探偵日記 9月5日金曜日 晴れ

9月の最初の日が月曜日でもう金曜日。特に何をするでもしたでもなく、時間がまるで渓流のような速さで流れてゆく。時間が有れば麻雀をして、夜になれば安酒場で焼酎をあおり、仲間と、孫、病気、時にゴルフ談義を交わし秋の夜は更ける。

故郷の二つ下の幼馴染が、東京から生まれ育った古里に移住するという。僕が古希だから彼はまだ68歳。老け込む年ではない。C大を卒業して大手の私鉄グループ会社に入社。大学時代短距離の選手で昭和43年のオリンピックにノミネートされた逸材。C大閥にも乗って子会社の役員にもなったが病気には勝てなかった。身長185センチ、中年になって太ってきたが若い頃から俳優にしてもおかしくないくらいの好男子だった。彼は60歳の頃から、僕にしきりに(田舎に帰りませんか)と誘っていた。(生き馬の目を抜く)といわれる大都会での生活と、ゲシュタボが居るとまで言われ、少しでも油断すると足を掬われる大企業で管理職になった彼は心底疲れたのかもしれない。二人の子も独立し、孫の顔も見て、(もう責任は果たした)とでも思ったのか。そういう意味では僕とて同じだが、僕は、とても故郷に帰って暮らしたいとは思わない。まだまだ人並み以上の欲もあって、何よりもう少し刺激的に遊びたい。(笑)

探偵物語 39

後輩のことを書いたので、関連する話をちょっと思い出した。大手私鉄Tグループに勤務していた彼の関係で、少しばかり同社からの依頼で仕事をしたことがある。例えば、同社が全国展開したビジネスホテルの開業までのことで、ホテルに入れる業者を調査したり、地上げにからむ特殊な調査も行った。或る時、こんな相談を受けた「先輩、最近お付き合いしている地主が居るんですが、この間、紬の反物をプレゼントされたんです。貰ってもいいでしょうか」と。その後、僕もこの地主と親しくお付き合いするようになるのだが(御大尽)の遊び方とはこういうものか。大いに感心したものである。今でも歌舞伎町の古いママ達にとって懐かしい人に違いない。店単位で応援するのだから、高級店は彼を取りっこしていた。勘定も(よきに計らえ)って感じで、まさに、請求し放題だったと思う。そんな人に後輩は大層可愛がられた。夏休みになればハワイでゴルフ。僕はさすがにハワイまでは付き合えなかったが、御大尽が主催するゴルフコンペには必ず参加した。或る時、静岡県伊東市にある「川奈」で開催されたが、参加費が一人10万円だった。後輩の手前見栄を張って参加したが、普通は僕など行けないコースで、良い思い出になった。

しかし、彼もただの大金持ちではなく、人を見る目も持ち合わせていたようで、砂糖に群がる蟻のごとくたかってくる者の中で疑問に思った人物については僕が調査した。結果は、そのほとんどが(今後の取引には一考を要す)という所見になった。----------------