探偵日記

探偵日記 3月19日木曜日 曇りのち雨とか

今年の花粉は強烈だ。昨日、朝一つ飲んで外出した。何時もならこれで夜まで持つはずだったが、正午を過ぎるあたりからくしゃみを連発。鼻水も止まらなくなった。少し遠出をしたので、その間中くしゃみと鼻水に悩まされ、19時にやっと薬局を見つけストナリンを購入。栄養剤と一緒に飲んで少し治まった。
今朝、散歩から帰るとまたグシュグシュし始め、今度はクリニックから貰ったタリオンを一錠飲んだが家を出る頃になるともうだめ。事務所について常備してあるストナリンを飲みパソコンに向った。

新宿・犬鳴探偵事務所 8-4

 犬鳴は、その日、昨日の男が所属する組を調べてみた。新宿警察の刑事にもチラシ(暴力団の分布図のようなもの)を見て貰い、神戸の本部との位置関係や、四国の組本部の勢力等を教えてもらった。この頃にしては珍しくシャブ(覚せい剤)を扱い、資金力は豊富で、どちらかというと戦闘的な集団ということも分った。
この日は高倉健みたいな奴がやって来た。比べてみると、一緒に来た昨日の男が小さく見えた。名刺を見ると(若頭)と書いてある。一般の企業でいえば専務というところか。犬鳴も丁寧に挨拶し、(こんな偉い人にわざわざ出張ってもらってすみませんね~)と言う。聞きようにとってはちょっとおちょくられたと思うかもしれない。しかし、若頭はなんでもないように笑って、「探偵さんも大変だね。こんな事も仕事のうちなの」と聞いてくる。犬鳴は(いいえ、まあ成り行きって言いますか僕も頼まれると断れない性分で)と応じる。

 若頭の言い分はこうだった。自分のほうの依頼者は(ある時、Sグループのオーナーと知り合い、毎月8百万円の報酬でコンサルタント契約を結んだが、最初の一か月分を呉れた後、知らん顔をされた。それで、ちょっと面白くなく思っていたところに、今回の摘発騒ぎで全店閉めてしまったので、コンサルタント契約に基づいて営業を代行しているのだ。したがって、盗んだの、泥棒だの、って言われる筋合いではない。)と言っているという。ふ~ん。上手い口実を考えたなあ。こんな輩に、じゃあコンサルタント契約書を見せろ。などと言っても通用しないだろう。彼らの世界は、言ったいわないで十分通じるようだ。余談だが、犬鳴の友人が暴力団員の経営する金融会社から3百万円借りたことがある。その時、たまたま犬鳴が同行したことで(お前が保証した)と言われ、友人が夜逃げしたあと事務所に乗り込まれた経験があった。とにかく、理屈や常識が機能しない世界なのだ。
(そうでしたか。貴方のおっしゃるように、コンサルタント契約が存在すれば法的に違約金の支払い義務が生じるでしょうし、仮に、そんなものが無くても道義的にはその女性の言うことに一理ありますね。じゃあどうでしょうか、お店を返して貰う条件を詰めて頂けませんか)と、申し出た。

 Sグループのオーナーには、確かにそういう面が多々あった。これまで、基本的には、犬鳴との約束は違えないが、言うことがころころ変わる傾向があり、犬鳴のほうで準備していたにもかかわらずキャンセルされたことも再三だったのだ。勿論、若頭にはそんなことは言わなかった。或いは、その女性が、作り話をでっち上げてヤクザを利用しようとしているのかもしれなかった。この日は、(お互い事情を確認し、また会いましょう)ということでお開きとなった。一時間余りの会談だったが犬鳴はどっと疲れた。歌舞伎町で飲んでいる。という高柳に連絡して、彼らと合流する。ああ、今日も散財しなければならないなあ。と、ちょっぴり反省したが、費用はたっぷり預かっていた。

 歌舞伎町のクラブで高柳に会い、その話をすると、「面倒ですね。向こうは折角のチャンスだから生半可では引かないでしょう」と言い、「内々で話をさせたらどうでしょう。なんなら、一旦自分は下がってもいいですよ」と言う。要するに、向こうも関東のヤクザを相手じゃあおいそれと手を引かないだろうから、同じ傘下の者と話をさせたら案外上手くいくんじゃあないか。というのが高柳の考えで、知人にうってつけの奴が居ると言う。当時、その団体は五代目になっていたが、その当代の出身母体がYグループと称し、百以上の組で構成されており、最も勢いのある一大勢力となっていた。今回しゃしゃり出てきた組もその一つだった。犬鳴は、まあそのほうが円満に進むだろうが、結果的に、(玉虫色の解決)にならないだろうか懸念した。要するに、依頼人の思惑と違う(なあなあ)で終わるんじゃあないかと思ったのだ。しかし、向こうが本気になったら高柳の30名足らずの兵隊では太刀打ちできない。ーーーーーーーーーーーーーーー