探偵日記

探偵日記 3月27日金曜日 晴れ

昨日は所用で甲府へ。17時ちょうど発のあずさで行って、甲府発21時09分のあずさで帰京した。今朝は、月一回の定期検診の日。体重が1キロ弱減っていた。結果は来週月曜日に出る。少し気をつけたので改善されていると良いが。10時過ぎ事務所へ。調査員らは現場に出ているのか不在。事務の高ちゃんが用意してくれたヤクルトを飲む。

新宿・犬鳴探偵事務所 9-1

 バブルが崩壊して随分経った頃、東京地方裁判所から訴状が届いた。原告は我が国最大の宗教団体S。被告は犬鳴探偵事務所のほか、犬鳴探偵事務所に違法な調査を依頼した。という趣旨で、日蓮宗の総本山の関係者及び、その講の代表者と、講の元職員であり信者のWという男。犬鳴を含め計5名であった。損害賠償1億円が求められ、Sの大弁護団が代理人となって訴えを起こしたらしい。

 訴状が届いたその日の夕刻、被告の一人N講の代表者、一般的には「講頭」という。から連絡が来て(至急会いたい)と言う。勿論、犬鳴のほうも会わなければならないと思っていたので承知し、東京赤坂にあるホテル、ニューオータニのダイニングの個室で会う約束が出来た。講頭の求めに応じ、犬鳴探偵事務所の顧問弁護士を同行し、約束の午後6時、ホテルに赴いた。同行した顧問弁護士を紹介し、すぐに協議に入った。第1回の公判日は決まっている。まあ、民事の初回の公判は代理人同士の顔合わせみたいなもので、わが方は、訴状の内容に対し「不知」を宣言し、争いの火蓋が切られる。争点は至極簡潔なもので、N講から依頼されて、犬鳴の事務所がSの幹部宅の電話を盗聴したか否か。であった。いわゆる、犬鳴探偵事務所が違法な調査を行い、それを指示したのが、N講をはじめとする本山である。というのが、S側の主張だった。では、犬鳴探偵事務所は本当にそのような違法な調査を行ったのか。その是非はさておき、(売られた喧嘩は買わなければならない)仮に、犬鳴ほか被告が応じなければ欠席裁判で速やかに判決が下され、否応無く一億円の支払いを迫られることになる。また、被告が複数居る場合、原告は(取りやすいほうから取ればいい)のであって、この場合、何の資産も蓄えもない貧乏探偵事務所は対象外となる。したがって、犬鳴にしてみれば(どうでもいい)が、違法調査を認定されれば、次に、刑事告訴をされかねないし、(あの探偵事務所は違法調査をするところ)というレッテルを貼られてしまう。

 しかし、犬鳴探偵事務所がバブル崩壊後も健在で、相変らず調査依頼が絶えないのは(特殊調査が得意)という風評が定着していたからにほかならないし、犬鳴自身、(探偵が、依頼人にダイヤモンドの情報を提供するためには少しばかりの勇み足はやむをえない)と思っていた。業法が出来た今、法令順守が前提であるから本音として声高にいうことはないが、そういう覚悟は常に持っていた。

 今回の裁判沙汰はN講側のミスである。犬鳴探偵事務所が遂行した調査の過程で(失敗)した結果であれば、全責任は犬鳴が負わなければならないが、このような状況に陥った経緯はN講のナンバー3だったWの裏切り行為に端を発している。WはN講と犬鳴探偵事務所の連絡係みたいな存在だった。それだけトップに信頼されていたのだろう。秘密裏に行わなければならない特殊な案件について、犬鳴と打ち合わせるため頻繁に犬鳴探偵事務所に出入した。当然のように調査員らとも親しくなり、犬鳴を交えて飲むことも再三であった。ところが、トップに全幅の信頼を得ていることをいいことに、仏に仕える身でありながら酒色におぼれ、遂には、公金を横領したうえ、次々に若い女性信者と淫らな関係を持つようになり、例えば、勉強会等の席でWと深い関係になった女性同士が取っ組み合いの喧嘩をし始めるなど、本来神聖でなければならない組織が大いに乱れてきた。

 トップも最初のうちは折に触れて注意する程度だったが、ある時、逆上したW愛人の一人が嫉妬に狂って刃傷沙汰を起こすに至り、N講頭も堪忍袋の緒が切れてWを破門にした。
その結果、逆恨みしたWがこともあろうに、反対勢力のSに駆け込み、(N講がお宅の主だった人の自宅の電話を盗聴しています)と訴え、Sの庇護のもとに隠遁してしまったのだった。
 これより数年前、日蓮宗では大きな宗門の争いが勃発、時の日顕上人が、何かにつけて反抗的な宗内の最大講であるSを破門にしたのである。これに怒ったSが、本山に対し、右翼の街宣車を数十台送り込み、連日大音響で怒鳴り回るなどの嫌がらせをはじめたりして、両者の確執は修復困難な状況に陥ってしまった。-------------------------