偽装結婚 その13

探偵日記11月5日月曜日

週の始まり、何時もの朝、5時起床。すでに僕の部屋の前でタイちゃんが待ち構えている。トイレに行き仕度をする。コップ1杯の水を飲みいざ散歩。今日も勢い良く外に飛び出したタイちゃんが嬉しそうに歩く。6時、散歩を終え、8時に朝ごはん。ちょっと立ち寄り午後1時過ぎ事務所へ。今日は、3日に参加したゴルフコンペのパーティーが主催した歌舞伎町のクラブで行われる。18時~2時間の予定。成績が振るわなかったので欠席したいがそうもいくまい。



偽装結婚 その13

その後の調査で、月形と朴はイミテーションの結婚ではあるものの別の営利でしっかり結ばれていることが判明した。伊東弘美が対男性の「さくら」(便宜上客を装い周囲を欺く者達のことをいう)なら、朴は、結婚を切望する女性用のさくらの役割を担っていた。時は、韓流ブーム。韓国人の男性との交際や結婚を望む女性は沢山いた。かの国にも勿論戸籍はあるが確認のしようがない。朴は月形の夫であるが自国の戸籍上は独身である。ただ、本気で結婚する気もなく、その必要も無いので心配ない。やってくる女性客のお見合いの相手をし、婚約まで行き着けばそれなりの報酬が入り、月形にとって、当初の目的は達成できる。月形の結婚相談所は規模も小さく、極論を言えば月に2~3人引っ掛ければ十分経費は賄えた。

したがって、僕の依頼人の場合、特別で、極めて「上客」といえよう。ある時、依頼人に聞いたことがある。(ところで中内さん、伊東としたの)依頼人は、僕の質問に、はんなりと笑い「出来なかったんです」と答える。僕も野次馬根性でもう少し突っ込んで聞く(どういうことですか?)邪気の無い依頼人の笑顔はまるで仏様のように感じた。そして、口の中でもごもご何か言った。僕なりに解釈すると「新宿で食事をしたあと、伊東さんはさっさとラブホテルに入って行きました。僕は慌てて入ったんですが、部屋に入るとシャワーをし、真っ裸でベッドに仰向けになったんです。僕のほうは心の準備が出来ていなかったので、出来なかったんです。」要約するとこういうことのようだった。どこまでも純なのだ。以後、一度もチャンスを貰えず、挙句の果て携帯を着信拒否にされるに至った次第である。

あまりにも伊東の態度が冷淡なので聞いたらしい。「伊東さんは僕と本当に結婚してくれるんですか」と、これに対し伊東は、「冗談じゃあないわよ貴方みたいなつまらない男と結婚なんて。それに、貴方は臭いから」と、言い放ったらしい。今まで依頼人に要求したお金は全て月形の自作自演で、伊東は詳しいことを聞いていなかった。月形のいいなりに、お見合いをして、婚約まではしたが、伊東の方に、依頼人と結婚する意志は無かった。ただ、月形を経由して、多少の報酬を得ていたのだろう。だから、歌舞伎町のラブホテル行きになったらしい。伊東にとって、依頼人の男性機能が発揮できなかったのがせめてもの幸いだった。

臭いし、会話も面白くない。と言われたほうも可哀想だが、嫌々会ってきた伊東も辛かったようだ。月形も次第に手詰まりとなり、窮余のの策として、依頼人に別の女性をあてがうことにしたようで、或る時、「中内さん、あの伊東は駄目だね性格が悪すぎる。今度はもっと良い人を紹介するから」と言いはじめ、実際に伊東より少し年上の女性を伴って、依頼人とお見合いさせた。後日、「中内さん、あの人あなたのことを気に入ったみたい」と言い、更に、「貴方ももっと男を磨きなさい」と言い、まず髪形を変えよう。と言って、美容師を紹介された。「帽子が似合うかもしれない」と言い、帽子も買わされた。

月形は、とことん搾り取ろうと考えたようで、その後も、何だかんだと口実を設けお金を要求してきたが、依頼人も慎重に対応するようになり、30万円を請求されたら、「今お金が無いから」と言って、10万円渡す。ようにして調査の結果を待っている。或る日のこと。月形が改めて依頼人にお見合いを勧めてきた女性を尾行してみた。その女性は、依頼人や月形と分かれた後、駅前に停まっていた乗用車に乗り、自宅と思われるマンションの1室に、車を運転していた男性と帰宅した。後日の調査で、二人は正式な夫婦であることが判明した。

僕は、弁護士は刑事事件に持ってゆくのかな。と思っていたが、結局、返金請求という民事で、東京地方裁判所に告訴した。-------(了)