借り逃げ 3

探偵日記 7月1日月曜日晴れ

本当に早いもので平成25年も半分過ぎた。僅か半年でも色んなことがあり、探偵志願の人が現われたと思ったら4ヶ月で辞めてしまった。希望を持って業界に入ってきた人に去られるのは辛い。受け入れる側の責任というか体制に問題があるのだと思う。まあ、2年3年と頑張った挙句に失望されるよりは、ダメなものは早いほうがいいともいえる。僕の場合、退路を断ってこの業界に入ったのではない。仕方なく。というか、他にやることが無かったから。ともいえた。しかし嵌ってしまったのである。僕の頃と違って、今は、「個人情報保護法」とか、「差別問題」など、個人の調査に色んな制約がある。したがって、身元調査等困難を極める。我が国は単一民族で、我々は戸籍で統一され、住民票である程度の身分は保証されている。間違っても(何処の馬の骨だかわからない)とは言われないのだ。昔、某銀行の支店長さんが、面会に行った僕の名刺を折り曲げながら、「こんな名刺何処でも作れる。」と言った後、何処の馬の骨か分らない。とのたもうた。その場では黙って帰った僕は、その銀行の代表取締役宛に、見解を問う内容証明を送付した。慌てた支店長さん、本店の人事部長を同伴して謝罪に来たが後の祭りだろう。数日前、小学校の校門近くで48歳の無職の男性が3人の児童を傷つけ逮捕されたが、世の中、何と狂った人の多いことか。この頃は、(人を見れば狂人と思え)と思う日々である。

借り逃げ 3

今回のマルヒもそうした狂人の一人ではないかと考える。曲がりなりにも最高学府を終え、その業界で世界一といわれる企業に入り重役に上り詰めたほどの人である。(借りたものは返す)社会人として当然の義務を疎かにして、というより、はなっから返すつもりも無い借金をして、本人は(儲かった)とでも思っているのだろうか。事務所ではマルヒを数日間尾行等の調査を行った。その結果、マルヒの日々の生活の全貌が見えてきた。迎えのハイヤーで世田谷の豪邸を出たマルヒは、自分名義で購入した超高級マンションに出勤。その部屋には、銀座で働く27~8歳の美人ホステスが待っており、昼下がりならぬ、お昼前の情事をすませたあと、愛人の手料理でランチ。午後2時過ぎに、今は顧問をしている会社に顔を出す。

夕方からは、自ら経営するレストランにブローカーや芸能人を招き豪華なディナー。やがて愛人ホステスが勤務する銀座のクラブへ。毎日のように接待されている某タレント君のブログを読むと「00さんは僕が憧れる人の中でも超大物実業家で~す。女性にも物凄くもてるし、何より僕みたいな若輩者との約束もキチンと守ってくれる。僕も年を取ったら00さんのような男になりたいな~」なんて書いてある。

なんでもない約束は果たすが社会人として最低の節度は知らんぷり。妻や家族を裏切り、国家をも欺く。イギリス領の小島に本店を置き、本来日本国家に収めるべき税金を他国に支払い、ある時は、仕手戦を仕掛け善良な一般投資家を操る。マルヒにとって、自分の享楽のために必要なお金を得るためには、なりふり構わず守銭奴に変貌する。
更に調査を進めるうち、調査員の一人が、これ一つでマルヒを葬れる情報を掴んできた。

この調査はこの回で終了するが、近々の週刊誌で顛末を報告する。マルヒの頭文字はT。-----------------