探偵日記

探偵日記 3月3日月曜日曇り

今日はお雛様。この日になると必ずといって良いほど思い出す人がいる。最初に知り合ったのは僕がまだ探偵になりかけの頃、当時ちょっとだけ付き合った知人の彼女だった。その後、僕の母親の親友となって、後に、僕の叔父の彼女になった。三重か愛知の出身だったと記憶するが、その頃、保険の外交をして、一人娘を育てていた。といってもそれは後半になってのことで、知り合った頃は、夫が養育していたように思う。世間によくある話で、夫や子供を棄てて若い男と駆け落ちした先が東京だった。そんな女性だから、純真な人で、ひとまわり以上年下の彼に振り回されていた。この若い彼というのがしょうもない奴で、俗に言う「ヒモ」である。仕事も長続きせずパチンコと酒にまみれた生活で、彼女が一生懸命働き日々の暮らしを支えていた。その男が、コソ泥だったらしく、或る日、酒を飲んで、店に置いてあった客の背広を盗んだとかで、S署に逮捕された。僅かな縁で仕方なく差し入れに行ったら、盗犯担当の刑事さんに「あいつは前科11犯だ」と教えられ、以後の付き合いには要注意した。この事件をきっかけに彼女も愛想を尽かし、別れることになり、どういう経緯か知らないが叔父の彼女になっていた。

僕が彼女のことを毎年の今日思い出すのは、彼女の誕生日が昭和3年3月3日だったからで、おそらく良い星の下に生まれてきたのだろうと思ったが実際にはその真逆だったのかもしれない。しかし、晩年は、一人娘が堅いサラリーマンと結婚し、わりあい安定した生活が出来ていたようだから(終わり良ければなんとやら)だろう。最後に会ったのは、僕の母の通夜だったから、もう20年以上前のことになる。ついでながら、もう一人、今度は男性の話。僕のゴルフ仲間、カラオケ仲間(仲間と言うにはややおこがましいような人だが)Yさんという人がいる。彼は、昭和7年7月7日生まれ、7が三つ揃えば、パチンコなら大当たりである。さぞかし強運の持ち主に違いない。と思っているが、まさにその通りで、阿佐ヶ谷の大地主にして大金持ち。勿論仕事なんかする必要もなく、毎日地回りをしている。M銀行にン十億円の預金があるそうな。数年前、長年連れ添った奥方に先立たれ、子供も居ないから財産はどうするんだろう?というのが僕達のもっぱらの関心事。酒を飲んだ後、背中を丸めてとぼとぼと帰る様子は(幸せ)とは程遠い姿に思えるのだが。