探偵物語 29

探偵日記 8月18日月曜日 晴れ

12日火曜日、午後1時40分の新幹線のぞみで山口へ。新下関で友人に迎えられ、早速、豊前田の小料理店で夕飯を食べ、午後10時、豊浦町の自宅(別荘)に到着。座っていたとはいえ長旅の疲れが出たか、すぐに寝入った。翌朝、先夜の友人に、少し早めに来てもらい墓参を済ませ、ゴルフ場へ。懐かしい顔に囲まれてプレー。打ち上げでは恒例の(病気自慢)みな、大きくなった孫の話は途絶え、病気や薬の話に花が咲く。思えば全員古希を迎えている。丈の短い学生服に草鞋で小学校に入学した悪童も、今では好々爺となって、一人前に講釈をたれている。

翌日も別荘に泊り、15日に帰京。Uターンの帰省客でごったがえす東京駅から阿佐ヶ谷に着いてほっとする。それもそのはずだ。郷里で過ごした17年の約3倍を経て、第二の故郷と言うより、僕の(人生)そのものが凝縮された過去と現在がある。そしてもう少し先の未来も。

昨日は毎月一回行われる地元のゴルフコンペ「サンサン会」の日。何時もの栃木県小山市のひととのやカントリークラブへ。ところが、前日の朝から左足の親指の付け根が痛い。休暇中、昼間からビールを飲んだり長距離を移動したため、このところ治まっていた痛風の発作が出たようだ。すぐに痛み止めを飲んだことや、軽症だったためどうにかプレーすることが出来た。そして、足を気にしながら慎重にスイングしたことが幸いしたか、準優勝。優勝は、僕が誘って入会した新入りのKさん。めでたしめでたし。

探偵物語 29

7日ぶりの出勤。9時過ぎに家を出て阿佐ヶ谷駅へ。普段なら混みあう時間帯だが休暇中の人も居るのだろう電車は比較的空いていて、文庫本を読みながら新宿へ。途中、かかってきた電話に応対していたら地下鉄の始発電車に乗り遅れる。それでも2分後にやはり空いた電車がやって来た。日中は3時間に1本しか来ない田舎に比べると雲泥の違い。探偵にとってこんな便利な街はない。

某日、例によって協会事務局に詰めていると電話が鳴った。事務員が手を伸ばしかけて僕を見る。自分が出て代わるより、直接あんたが出たほうが手間が省ける。とでも言いたげな目の色なので、出てみると、急いた感じで「そちらは東京調査業協同組合さんですか」と婦人の声。僕が(ハイそうです)と応じると、「大至急結婚調査をして欲しいが出来ますか」と言う。(勿論出来ますがどうしてそんなにお急ぎですか)と聞くと、「ある調査会社に依頼してもう2ヶ月以上経つが報告してくれない。娘は明日にでもその男性が住む島根県に行きたいといっている」との由。一般的に、結婚調査は20日程度要す。したがって、受件の際、3週間から1ヶ月程度の期間を貰って行う。「とにかく2~3日で報告してもらいたい」と言う依頼人の要求はめちゃくちゃと言って良い。何故か、外出が困難。と言う依頼人のため僕が先方を訪問することにして、午後、事務局を出た。

その依頼人が頼んだ事務所は青山のT社。当時、青山に我が国最大の調査会社「帝國データバンク」の本社があったが、本件のT社とは全く関係が無い。しかし、一般の人は電話帳の広告を見て、(ああ、あの帝國か)と錯覚し、信頼する。T社の社長は業界でも有名なゴキブリ男で、ハエエナの様な人物だった。聞いてみると、50万円前払いで依頼したが、約束の期日を過ぎても一向に報告書が届かないと言う。依頼人の主婦は、毎日のように催促するが、その都度(報告書は昨日発送しました)と繰り返すばかり、両親は調査会社の報告を見て娘を送り出すつもりだったが、肝心の報告書が届かず、遂に娘と言い争いになってしまったという。--------------