探偵物語 30

探偵日記 8月20日水曜日 晴れ

今日も東京は34度を超えるという。朝4時50分、タイちゃんを連れて外に出るとムヮっていう感じ。40分も歩くと犬のほうが先にバテたようで、家に帰ると玄関のタイルで腹ばいになる。9時に家を出て、池尻大橋でご依頼人と面談。11時20分、事務所に戻ってくる。

探偵物語 30

午後、依頼人の自宅を訪問。玄関を入るとエレベーターがあり、「それに乗って上に来て下さい」と言われる。へ~お金持ちは違うな~普通の家なのにエレベータかよ。なんておもって2階に上がると電話をかけてきた婦人が出迎えてくれる。お嬢さんは?と聞く前に婦人が言う。「止めたのですが親の言うことを聞かないで羽田に行きました」と。

高校生の時、井の頭線で事故に遭い、片方の腕と足が無い体になったが、成人して結婚願望が強まり同じような境遇の相手を見つけては見合いを重ねてきた。今回の相手は東京から遠く離れた中国地方の青年で、小学校3年生の時、自宅近くで交通事故にあって、やはり重度の身体障害者であるらしい。まだ一度も顔を合わせておらず手紙や電話で(結婚しよう)という事になったという。お嬢さんは28歳。相手の青年は26歳らしい。しかし、当然ながら親としては相手の身元が知りたい。と思って、青山のT社に依頼したものである。「電話帳の広告を見て、大きな会社で私の主人も知っているところなので50万円振り込んで頼んだんです」そして、まんまとゴキブリに騙された次第。しかし、頼まれたからには調査をして報告をすればいいではないか。僕は単純にそう思い(T社は調査をしたはずですが、どうして報告をしてこないのでしょうね)婦人も「そうなんです。催促をすると送ったと言うばかりで何が何だか判らないんです」と言って心底不思議でしょうがないという顔をしている。

(でも、もし私の会社で調査をしている時報告書が届いたらどうなさいますか。二重に費用がかかってしまうことになりますが)と言うと、「構いません。それと私の考えではいつまで待っても報告書は届かないと思います」と断言し、調査申込書にサインし、用意していたらしく50万円を出そうとする。東京都の認めた協同組合加盟の業者だから信頼しているのだろうが余りにも無防備すぎる。僕は、(分りました。早速着手させて頂きますが調査料はご報告の時で結構です。ただ、遠方になりますので飛行機代などの実費として10万円だけ頂戴しておきます。)と言って、10万円の領収書を書き、(明日にでも報告書が届くかもしれません。その時はすぐにご連絡くださいね。)と言って、依頼人宅を辞去した。

翌日、機上の人となった僕は正午頃には調査地に到着。まず市役所に行き住民票や戸籍謄本を申請(当時はまだ弁護士の申請書があれば取得できた)一通りの公簿を得て、被調査人及び親族の年齢等を確認したあと、被調査人の自宅周辺における聞き込み調査に入った。予備知識の通り被調査人の青年は10歳の頃、自宅近くの大通りでダンプカーに跳ねられて重傷を負い、以後、普通に歩けないほどの障害に見舞われて今日に至っている。依頼人のお嬢さんが一人で島根県まで来れるのに比べ、単身での外出が困難な状態であるという。

翌日、家族全員の顔写真を撮り、運良く至近の距離にあった母方の実家周辺での調査も終え、その翌日の飛行機で帰京した。------------