探偵物語 33

探偵日記 8月26日火曜日 小雨と曇り空

昨日銀座に行ったが全体に閑散としていた。ただ、僕が顧問先に連れて行ってもらった高級割烹は予約で一杯だとか、日本もますます貧富の差が明確になってきたようだ。しかし、「貧者」の範疇に居る僕が「富裕層」が行くお店に行ける幸運も稀にある。人生捨てたものじゃあない。次に行ったクラブは10時過ぎまで僕らだけ、その次のバーはとうとう僕一人で閉店となった。「全く暇で困ります」と嘆くポーターの運転で淋しく帰宅した。

今朝も散歩に出たらポツリポツリと雨が落ちてきた。大急ぎで高架下に駆け込み30分ほど歩いて我が家へ。(雨だ走れ)と言うと、タイちゃんも猛ダッシュ。猟犬のDNAが蘇ったか、素晴らしい形で僕と併走した。タイちゃんももう12歳と6ヶ月、人間にすれば僕と同じぐらい。老犬と老人が路地を走る。

探偵物語 33

その間もひっきりなしに苦情が入りその処理に追われる。某日、多摩地区の某消費者センターから紹介されたという若い主婦が赤ちゃんを抱いて相談に訪れる。聞いてみるとH探偵社との間に交わした契約についてのこと。「夫の素行調査を頼んだら500万円の契約で、着手金を5000円払ったが、友人に相談したら、それは高すぎる。って言われて、私もそう思って断りの電話を入れてるんですけど繋がらないんです」と言う。1週間の尾行調査で総額500万円。聞いててため息が出たが、つい先ごろ、2日間の北海道出張の調査が450万円だったことを思い出し、金額については驚かない。(ご主人のお給料どのくらいなの?)と聞くと、30万円位です。と応える。それで500万円払えるの。と聞くと、払えません。と言う。じゃあ何故。と思うのだが、(夫の行動がどうしても知りたくて)前後のことを良く考えず契約書にサインしたらしい。僕は自分の娘ぐらいの主婦を見て、あ~あ。と思ったが、消費者センターから回ってきた苦情なので疎かに出来ない。

帰宅して友人に電話で話したら、その友人が(とにかくすぐ電話して断りなさい。着手金の5000円は諦めて)と強く言われ主婦も気付いたという。依頼人の主婦も当然ながらお金がない旨をH探偵社の担当者に伝えている。ところが担当者はこう言ったらしい。「奥さん良く考えてみなさい。今貴女は人生の岐路に立っている。ご主人を浮気相手に取られていいんですか。そんなお金のことを言ってる場合じゃあないでしょう」と。さらに、お金のことは私のほうで考えてあげる。と言いながら、サラ金数社を紹介してくれたらしい。----------