探偵物語 43

探偵日記 9月12日金曜日 晴れ

昨夜は久しぶりの人と会って渋谷円山町の小料理店で食事した。一人は郷里の幼友達で、あとの二人は実に20数年ぶりの再会である。みんなそれなりに齢を重ね穏やかな顔をしていた。3時間余り多いに飲み、食べて、またいつか会おうと約束をして別れた。そのまま帰ればいいものを、阿佐ヶ谷に着いた途端変な気を起こし、(天国に一番近いスナック)「ほろよい」に寄って仕舞った。午前2時帰宅。妻の部屋のドアに(明日の散歩宜しく)と書いたメモを挟んで就寝。今朝は8時に起きて美味しく朝食を頂く。

探偵物語 43

依頼人と弁護士が苦笑しながら数枚のペーパーを僕に見せる。それはマルヒと相手男性のメールのやりとりだったが、凄まじい内容で、男の金の無心に対し、代価を求めるマルヒのセックスの表現が書かれていた。仮に、夫が僕なら調査なんかしないで、問答無用で即離婚するだろう。夫をみくびるのも言語道断の内容で、マルヒの教養を疑うものだった。(女ってここまで狂えるのか)というのが僕の正直な感想だったが、二人に言えるわけも無く、(動かぬ証拠を掴んで欲しい)と言う依頼人の申し出を承知した。この依頼人は、妻とその男が裸で睦み会っている写真を見ても離婚の決心はつかないだろう。軟弱なのではなく、妻に惚れているのだ。

専業主婦と無職同然の男のツーショットはあっさり撮れた。ある時は近くのラブホテルに行き、またある時はマルヒが男の部屋を訪れる。というふうに、三日とあげず情交を重ねていた。男は、依頼人の親友であるから身元調査は省略し、ただ日々の行動を詳細に記録した報告書を持って、約束の日に報告した。無職の男から慰謝料を取ることも出来ず、かといってこのまま看過することも出来ず、弁護士が形ばかりの内容証明を出すことで、その日の話し合いは終了した。

ただ困ったことは、依頼人が調査費用をなかなか払ってくれない。遂には、事務所に電話をかけても居留守を使う有様で、親しそうだった弁護士にも相談できず、最後は、僕の事務所の顧問弁護士から督促の手紙を送ってもらい、漸くけりがついた。すると、入金があった翌日、依頼人から「妻が北海道に旅行するって言うから、明朝から尾行して欲しい」という電話がかかった。僕は(ふざけんじゃあないよ)と思ったが、依頼は承知して、(分りました。遠距離になり経費もかかりますのでとりあえず30万円振り込んでください)と言ったら、無言で電話が切れてしまった。--------