恋愛ごっこ 1

探偵日記 9月16日火曜日 晴れ

ブログを書き始めたら地震。大きくグラッと揺れて慌ててベランダ側の窓を開けた。事務所はビルの7階にある。「耐震基準はクリアしています」入居する時の仲介業者の弁。とはいっても生きた心地はしない。昔から、地震雷火事親父。というように怖いものの筆頭である。雷も火事も経験しているが、昨今頻発するこの地震は本当に不気味だ。まあ、このビルが潰れるようなら何処に居たって同じ。と、強がっているが出来ることならベッドで死にたいと思う。

日曜日の月例はAクラスの準優勝で終わった。ネット72、パープレーで、どうせダメだろう。と思ってコンペ会場に行くと、支配人が、では3位から発表します。と始めて、第2位フクダタダシさんと僕の名前を読み上げる。優勝は僕と同スコアで、ハンデの差だった。(よし10月は必ず優勝するぞ)しかし考えてみるとゴルフも人生も似ている。タラレバではないが、必ず後で後悔する事が多い。僕はこの日、短いパットを何度もはずした。キャディ嬢とのリズムがまったく合わず、僕は左に切れそうだな。と思ってアドレスしようとすると、右に流れますよ。と、聞きもしないのにアドヴァイスする。迷いながら左から打つと、右に流れるどころかどんどん左に流れてしまう。まあ、打ち方が悪いんだろうと慰めるが、あのパットが入っていれば。という一日だった。

恋愛ごっこ 1

探偵の世界も様変わりして、バブルの頃に流行った(自分探しの調査)の他に、(別れさせ屋)や、出会いを仕組む。なんてことも探偵の業務の範疇に入ってきた。勿論、僕の事務所ではそんなことは引き受けないし、主管も厳禁している。ただ、人情としては分らないでもない。夫の素行調査をしてみたら案の上彼女が居た。それも自分よりうんと若く美人。(まああの子じゃあしょうがないか)とあっさり諦めることはできない。長年家を守り夫の成長を助けてきたのに、何の苦労もしないで(いいとこ取り)されるわけだから妻にしてみれば(あの女さえ居なければ)と考えるのも頷ける。と言う訳で、この種の依頼が増えてきたようだ。場合によっては探偵が誘導することもあるのだろう。

僕の事務所で修行したS君が経営する探偵事務所にこんな依頼が入った。依頼人は30歳ぐらいの女性でまあまあの美人。依頼内容は「私とラブホテルに行って貰いたい」というもの。S君から聞いた僕は(じゃあ俺が行く)と立候補したのだが、(もう少し若くてハンサムがいい)とのこと。ショック。
S君に(どうしてそんなことを頼んでくるんだ)と聞くと、彼曰く「依頼人がちょっと付き合った男と別れたいらしいんんです。ただ、その男が承知せずストーカーみたいになって、なんだか、その男を諦めさせる手段として、もうあの女性にはちゃんとした彼氏がいる。という証明をしたいらしいんんです」だから、ラブホテルから出てくるツーショットを撮りたいんです。何らかの形でその男に見せる所までを引き受けたらしい。

そんな話を聞いて数ヶ月経った頃、事務所に来たS君の顔を見て思い出した僕は、(そういえば例の件どうなった)と聞くと、S君は笑いながら、「まいりましたよ。実は所長も知っているTにその役をやらせたんですが、ホテルに入ったきり出てこなくて、あとで聞いたら本当に出来ちゃったらしいんです。」TはS君の事務所では古株だが大人しい男で独身である。ちょっと軟弱でボーっとしているが見ようによっては可愛く見えないこともない。僕は、へ~と思ったが、S君はさらに、「Tの奴、依頼人にのぼせちゃって、結婚したいってぬかすんです。なんか子供も出来たようで、こういうのが瓢箪から駒っていうんですかね~」と笑う。そして、二人はめでたく結婚し、その後、三人の子供が出来たが、所詮始めが始めだけにあっさり離婚してしまった。ーーーー