探偵日記

探偵日記 3月24日火曜日 晴れ

今朝は寒かった。5時の目覚ましで起きてタイちゃんを連れて外に出る。最近の彼は何だか元気が無い。今日も30分少々で帰宅。元気に歩くし、ご飯も美味しそうに食べるので大病を患ずらって居るのではないと思うが、人で言えばもう80歳近い老犬だからいたしかたないのかな~。散歩の途中、僕を見上げるタイちゃんの情けない顔はもしかしたら僕に似てるのかな。(笑)
少しゆっくりしてお昼前に事務所へ。来客があり所長が面談しているようだ。依頼人は若い女性だとか。依頼人の心の底が見えるようになるにはまだ何年もかかるだろう。

新宿・犬鳴探偵事務所 8-7

 およそ半年続いたヤクザを交えた交渉ごとや、調査ともいえないような業務も終え、ひと段落したところで新しい仕事が入った。数年前、チョイ悪のブローカーを紹介してくれた麻雀仲間が居て、「ワンちゃん。俺の知り合いで不動産関係の仕事をしている男が居るんだけど会ってくれないか」と言うので早速会ってみると、口八丁でまさに食えない印象の男だったが、勢いみたいなものは感じた。話してみると犬鳴と同い年で、趣味は女と麻雀というから似た者同士と言えなくも無い。
その、佐倉という社長が、「すぐにとりかかってくれ」という案件は、「行方不明の男を大至急捜してくれ」というもので、成功報酬で2百万。と言うと、「分った。じゃあこれはとりあえずの着手金。」と言って、鰐皮で大きめの財布から30万円取り出し、紹介者に聞こえるように言ってよこした。

 そのあと、何のことは無い。彼の「じゃあやろうか」と言うひと言で、近くの雀荘に移動し囲むことになり、ちょっと手を抜いたら10万円ほど負けてしまった。その時のメンバーは、犬鳴と、犬鳴を紹介してくれた在日の金貸しに、社長とその部下で沢口という顔色の悪い男だったが、今日は、その沢口が思いがけず電話をしてきて、「今、自分が世話になっている事務所で調査を必要としているので責任者と会ってやってくれないか」と言い、溜池近くの会社に同行し依頼を受けたのだった。

 はからずも関西の暴力団と昵懇になったのが平成7年春。犬鳴が恐喝未遂容疑で逮捕され、懲役1年、執行猶予4年の判決を受けて東京葛飾にある小菅(正式には東京拘置所)を出たのがその前年の暮れだったから、Sグループの仕事が終わって間もなくのことである。沢口との出会いとなった不動産会社の元気のいい社長は、あの後、神奈川県平塚市の資産家から十数億円騙し取ったとかで、神奈川県警に逮捕されたから、付き合いも途絶えていたが、沢口はしっかり犬鳴のことを覚えていたようで、出入している事務所で「いい探偵は居ないか」という話題となったとき、真っ先に犬鳴のことを話し、責任者に(じゃあ会わせてくれ)と言われ連絡をくれたものらしかった。
というのも、あの時、依頼された所在調査をいとも簡単に成功させ、関係者を驚かせたため、(腕のいい探偵)という好印象を与えたらしかった。業法が出来た今、詳しくは書けないが、当時は、ある特殊な調査技術を持っていた犬鳴探偵事務所は、所在調査に限らず、(特別な案件)には滅法強かった。

 沢口に連れて行かれた事務所は、首都高速道路と外堀通りが交差するあたりの雑居ビルの中にあった。仮事務所らしい殺風景な部屋に入ると、お世辞にも良いとはいえない人相の男が数人居た。沢口はその中で一番若い痩せぎすの男性を、「黒木さんです」と言って犬鳴に紹介する。黒木という32,3歳の男は、犬鳴を一瞥したあと自分の名前を言って(宜しく)と言う。無表情で愛想のない奴だな。というのが犬鳴の黒木に対する第一印象だったが、この感触は最後まで変わらず、その後も親しく交わった覚えがなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーー