探偵日記 7月1日水曜日 雨
朝から本降りの雨。タイちゃんの散歩も25分ほどで終了。9時、歯医者さんの予約が有り行く。13時、川崎で受件。まあ、幸先が良いといえば良い。2時半、事務所に戻って、3時半、製本された報告書を持って麹町の弁護士事務所へ。調査のほうは完璧に行ったが結果はご依頼人の期待通りではなかった。気が重い。明日は雨の中のゴルフだろうか。またまた気が重い。
れんげ 4
その日、夫を送り出した後、家事を済ませて、今日は本でも読もうかな。と思いリビングに入った時、カーテンの隙間を白いものが横切った。今のはなんだろう。と思って窓に近づいて外を見ると、遠くで一匹の野犬がこっちを見ている。さっき横切った犬かしら。見るとも無く見ていると、犬のほうもじっとこちらの様子を窺っている。暫くその犬を見ていた楓は体中に電流が流れたようなショックを覚えた。楓の目にはその白い犬が天使の生まれ変わりに見えたのだ。多分、付近を屯する野良犬の一匹なのだろう。これまで見ていたのかもしれないが、今日初めて現われたようにも思った。和犬かな。それにしては尻尾が真っ直ぐ上に向って伸びている。もう成犬だろうと思われたが、中型犬のようでさほど大きくは無い。まだ犬はこっちを見ている。私のことが珍しいんだろうか。楓も一緒になって、まるでその犬とにらめっこするように見つめあった。何て美しい犬だろう。和犬に関して多少知識のある楓は、その犬の姿かたちを見て、その気品の良さに見惚れ、すぐにでも走っていって抱きしめたい衝動に駆られてしまった。カーテンを閉め、急いで玄関を飛び出し、その犬の居た方に駆け出した。犬はまだこちらを見ていたが、自分の方に向かって小走りで駆けて来る楓の姿を見ると素早く走り去ってしまった。あんな綺麗な犬が欲しい。その日一日、楓は飽きもせず、リビングから見える外を眺め、時々外に出ては周囲を観察しながら過ごした。