探偵日記 03月18日水曜日 晴
今日からずいぶん暖かくなった。ただ、咳が酷く辛い。午後、日比谷の耳鼻咽喉科クリニックへ行き、検査の結果、やはり、咳喘息と診断された。何種類かの薬を貰い、阿佐ヶ谷の焼き肉屋で晩御飯を食べて帰宅。クリニックへ向かう途中、依頼人A氏から電話。「探偵の仕事のことじゃあないんですけど相談に乗ってもらえますか」と言う。勿論断る選択肢はない。OKして指定の喫茶店で会う約束をする。僕は、尻軽というか、サービス精神が旺盛というか。男としての貫禄に欠ける。という評価もあるが、(これでいい)と僕は思っている。
新宿・犬鳴探偵事務所 3-18
ねんごろになった後に起こった井口氏の不倫を二人は共有していたが、当のマルヒは自分の妻の不倫を気付いていなかった。これまでの調査を通じて、マルヒの人となりは承知していたが、誠に好人物であった。かりそめにも、妻の行状を疑うなんてことは微塵もなかった。しかし、女である夫人は内心恐れおののいていたのだ。
井口夫人の新しい依頼案件は、夫人の不倫相手の娘。井の頭線の線路沿いに広大な敷地を有する地主の一人娘。結婚して子供も二人有る平凡な主婦で、娘夫婦の家はその敷地内に新しく建てられた和洋折衷の瀟洒な建物だった。家庭は、銀行に勤める夫と二人の子供。表向きは質素な暮らしぶりだが、裕福を絵にかいたような家庭で近所の羨望と嫉妬の対象であった。犬鳴きは最初、(なんでこんな調査が必要なのだろうか)と訝しく思ったが、次第に、(ああそうか、何かしらの弱みを知っておきたいんだな)と思うようになった。・・・・