探偵日記 8月22日木曜日晴れ
今朝は4時40分頃外に出る。(涼しいな)と感じたのは僕だけではなかった。タイちゃんも珍しく元気一杯に1時間散歩した。それでも家に着く頃は息が切れた様子でハァハァいっている。
今日は日本橋の社長とランチの約束があり11時に会社を訪問する。少し雑談して近所のレストランへ。お持ちのビルの一つが築後30年で空調を取り替えなければならなくなったと言う。貧乏人の僕はすかさず聞いた(おいくらかかるのですか?)社長「うん、2億円だそうだ」確かに、万が一冷房が止まったら入居者は怒るだろうし、その間の賃料を払わないなんて言われるかもしれない。持てば持った出苦労はあるものだ。数年前、ご自宅を改装した。その時も僕はいくらかかるのか聞いてみた。社長の自宅はマンションで45坪ある。S建設が建てたマンションで、改装も同社が請け負ったが4500万円だった。普通ファミリータイプのマンションが買える金額である。僕など溜息の出る話だが良いことばかりでもないらしい。「福田君聞いてくれ」と言って話しはじめた内容はこう言うものだった。社長には二人の兄と姉と妹が居る。次兄と姉はすでに亡くなったが最近長兄が亡くなった。東大を出て某省のトップにまでなった人物だった。今月の初め都下の養老院で亡くなったが、新聞の訃報記事で昨日そのことを知ったらしい。九州や北海道に住んでいるわけではない。オ~イと言えば届く距離にご自宅が有る。
子供の頃から喧嘩一つしなかった兄弟達だったのに。と言って悔やんでいる。どういうわけか故人の妻が親族との付き合いを嫌って音信を絶っていた。らしい。5人兄弟だから5つの家庭がありそれぞれ家族も居る。従兄弟やまた従兄弟が集まれば賑やかであろう。故人がジミ葬を望んだとは思えない。せめて弟や妹には見送ってもらいたかったのではなかろうか。何があったのか知らないが、僕は常々、(人の死はあらゆる恩讐を越える)ものだと思っている。社長の義姉は余程ひねくれた御仁らしい。
カンクラ 4
翌日から池袋のアパートで張り込むことになった。調査員の報告で(誰か部屋に居ます)との由。夜になって犬鳴も加わりやがて日付が変わって、彼女も仕事を終え駆けつける。午前3時、彼女が部屋のドアを叩き(Sさん私です顔を見せてください。)と叫んでも応答は無い。「オッパ誰も居ないんじゃあない?」一般に韓国人は短気な人が多い。彼女も例外ではなく、もう1分も待てない感じで犬鳴に詰め寄る。犬鳴は彼女を部屋の前につれて行き電気メーターを見せて(ほら、早く回っているでしょう。部屋に人が居ない場合もっとゆっくり回るんだよ。Sかどうかは分らないけど人がいることは間違いない)と説明してやっと納得した。
さらに時間が経過する。長くなればそれだけ調査費用は高くなる。と言っておいたので、彼女はそのことも気になるらしく「オッパ、後は自分でやるから引き上げて頂戴」と言う。犬鳴は、どうせちゃんとした料金はもらえないだろう。と思っていたので、(じゃあ、何かあったら携帯に連絡して下さい)と言って、調査員と共に一旦引き上げた。夕方になって彼女から連絡があり「Sの部屋に居る。話がついたので調査はもう良い」いくらか安心した様子で穏やかな物言いで報告してきた。そのあと、「疲れたから部屋に帰って少し寝たいから同伴して」と言う。店のお金は私が払うから。とも。普通8時出勤だが客を連れて行けば9時過ぎても良い。というのが韓国クラブのシステムである。まあしょうがないか。犬鳴は(どうせどっかに行くのだから)と考え承知する。
その後、彼女は20年以上日本に滞在しているが現在は永住権を得て暢気に暮らしている。Sとは、翌年3ねんビザを申請して許可され、そのビザがある間に永住権を申請し受理されたとか。運の良い例である。中には、就学ビザでクラブ勤めして、査察に引っかかり来日1ヶ月余りで強制退去を命じられたなんてケースも日常茶飯事で、警察に踏み込まれとっさに店の窓から逃げたのは良いが、店が5階だったため落下死したホステスも居た。石原慎太郎が都知事になってから摘発は一層過激になり、韓国クラブの留まらず、普通の食堂や美容室にも彼らは踏み込んだ。やはり犬鳴の良く知っているホステスで、パチンコ店の前で職質されあえなく母国に帰された子も居た。男性の場合、すりや窃盗等に関わる者も居るが女性は大目に見たら如何なものか。というのは不見識か、それとも犬鳴の無類なき優しさか。--------------