探偵日記 8月23日金曜日晴れ
数日前、もう30年以上前に知り合い今日までお付き合いの有る弁護士が、40年慣れ親しんだ事務所を移転したという連絡を貰った。非常に穏やかで真面目な人で僕の好きな先生の一人である。何かお祝いでもと考え、自宅に保管してある絵の中から「市川四方子」さんの人物画を持参することにした。事務の女性に、小田急でお菓子を買って訪問。アポなしだったので先生は不在だったが、なかなか小奇麗な事務所で駅からも近い。実は、事務所移転の理由の一つに(若い弁護士が加わった)とあった。縁は奇なもので、この若いK先生は、やはり30年以上前からお付き合いの有るI先生の事務所に6年在職したと書いてあった。I先生も穏やかな人だが最近少し太って貫禄が出てきた。と僕は思っている。弁護士としても俗に言う(油が乗った)印象がある。類は類を呼ぶ。とも言う。似たような先生の下で同じように力をつけてゆくのだろう。
今朝は4時に起きた。まだ早いかな。と思ったが隣の部屋の様子を窺うと、タイちゃんも僕の気配を感じて騒いでいる。では、ということで散歩に出た。ムワ~といった空気が僕達を包む。その上、小雨というか、霧雨のような水滴が顔にかかる。しかし、高架下には行かず約50分住宅街の小路を歩いて帰宅した。今日も午後には雷を伴う豪雨があるらしい。今朝の気温といい日本も亜熱帯国の仲間入りをしたようだ。
カンクラ 5
韓国クラブで飲んでいると驚かされることが多い。昨夜もじぇじぇじぇという話を聞いた。行きつけのクラブ「H」でのこと。客の一人に60代の痩せぎすの男が居た。名前は平山というので犬鳴はキョッポかな?と思っていたが案の上在日韓国人だった。馴染みの子に(あいつ何やってる人?)と聞くと、(金貸し)明瞭な答えが返ってきた。かの国でもあまり好かれない職業のようだ。この男がHに通う理由は勿論気に入っているホステスが居るからで、来るとべったり寄り添って他のホステスは入り込む隙が無いほどだった。そして昨夜、9時頃、平山氏が来店した。ちょうど犬鳴も席に着いたばかりだったのでそれとなく観察していたら、彼は持っていた伊勢丹の紙袋二つを、お気に入りのホステスに渡し何やら小声で話している。すると、そのホステスが、キャ~とかギャ~とか訳の分らない奇声を上げて男にむしゃぶりついた。後で他のホステスに聞いたら彼女はアイゴーと言ったらしい。
韓国人のアイゴーは色んな場面で使われる。簡単に言えば感嘆詞で、驚いたときや悲しいとき、或いは非常に感心した時思わず発せられる言葉で、岩手県の方言じぇじぇじぇと同意語とも言えよう。じゃあ何故彼女がそんなに驚いたかというと、平山氏は、当日が誕生日だった彼女に(俺は何を買って良いか分からないので、これで好きなものを買え)と言って、伊勢丹の紙袋二つに入れた8000万円をプレゼントしたらしい。この話は実話で、この頃歌舞伎町で飲んでいた者なら誰でも知っている。当分はこの話題で持ちきりだった。平原率いるケチ軍団及び犬鳴は、それなりに格好つけて飲んでいたが、以来シュンとなったことは言うまでも無い。時はバブルの最盛期、1本100万円のボトル(レミーマルタンルイ十三世)を入れるなんてことはざらで、あの不動産屋がどこそこのママに3000万円の指輪を贈ったが、ママにその場で投げ捨てられた。とか、或る焼肉店のマスターが、ホステスがパー券100枚買ってくれって言ったら翌日300枚買ってもらった。なんていう話はごまんと聞いた。ちなみにパー券1枚2万円である。
反面、悲惨な話も良く聞く。やはり我々ケチ軍団の席に良く着くホステスで光という子が居た。100キロはあろうかという巨漢だが回転が速く会話の上手いホステスだった。大女ながら和服が良く似合い結構売れっ子だった。或る日のこと、光が言う。「私、明日妹が日本に来るよ。成田に迎えにいかなくっちゃあ」実は、光は不法滞在者である。ビザを持たず何度も強制帰国させられたが、その都度戸籍を変えて入国している。この頃は、もう自分のパスポートでは出入国できず、帰国するたびに他の女性のパスポートを借りてイミグレーションを潜り抜けてきたそうだ。犬鳴が聞く。(だけど光ちゃん、今何歳だよ。そのパスポートの子と全然似てないし、第一体型が違うだろう)すると光はにやりと笑っての給う。「オッパ、女は変わるんだよ。だから係官に言ってやるんだ。女は1日ですっかり変わる生き物だってさ」パスポートの借り賃は1回10万円らしい。それでも焼肉店やスーパーでバイトする真面目な学生にとっては大金であろう。
犬鳴は止めた。(オイ光、悪いこと言わないから明日成田に行くんじゃない。バスだってエキスプレスだって入るとき調べられるんだから)光「オッパ、へっちゃらだよ。第一妹は日本語が話せないんだから私が行かなくちゃあ不安がるよ」犬鳴(じゃあ俺が代わりに行ってやる)勿論、その場の成り行きで出たリップサービスである。どうしても行くんだといってきかない光に押し切られ、その話題はそれっきりになったが、光の顔もその日を最後に見る事は無くなった。----------