裏口入学 4

探偵日記 10月2日水曜日雨

昨日は一日中事務所で書類の整理等して過ごした。時おり入る調査員からの報告を受け、必要な指示を出す。変化の乏しい調査は調査員らの忍耐が試されるものとなる。昨日のマルヒはお昼ごろ出てきて近くのスーパーで食材を大量に購入して帰宅したらしい。(客の予定でもあるのかな)僕が聞くと、調査員は即座に「それはないでしょう」と応える。何故そう言いきれるのか疑問に思ったが問い返すのはやめた。慎重な奴だから何らかの確信があるのだろう。
今日は事務の高ちゃんがお休みなので朝食を済ませて早々に家を出た。9時半前事務所に到着。エアコンをつけて日経を読む。数ページにわたって消費税のニュース。貧乏探偵事務所の経営には余り関係ないような気がしてざっと流す。考えてみると、伊勢丹で20万円のスーツを買うと、これまでは21万円だったが、来春以降は21万6千円となる。8千円あれば阿佐ヶ谷のスナックに3回行ける。これは大きい。

裏口入学 4

それから1年余り、代議士が外国に視察旅行に行く時は選別を渡し、またある時は、その学校の図書簡に寄付をするよう指示されたりした。しかし、笑いが止まらないほど儲かっているクリニックの院長夫人にとって、痛くも痒くもない金額で、むしろ「ねえ、犬鳴さんこんなことで大丈夫かしら」と心配される有様だった。犬鳴は、ブローカー氏と秘書さんまかせで、いいとも悪いとも分らなかったが、(坊やはどうしてるの)と聞くと「最後の追い込みで頑張っている」という。(まあ、任せておきましょう)ということで、ともすれば忘れてしまいそうな、自分とはあんまり関係のない案件ぐらいにしか思っていなかった。

6年生も終わりに近い新年の1月、代議士の秘書から夫人に連絡が入り、某日、代議士が直接夫人に会うことになった。犬鳴は、不安がる夫人に付き添ってキャピタル東急まで行き、そこのラウンジで秘書と会い、秘書は夫人を伴って議員会館へ向かった。1時間ぐらいして戻ってきた夫人の話では、代議士が自分の机の電話からK大付属中学校の事務局に電話し、「ああ、O×君、この間お願いした子供の受験番号は、12345で、名前はOO君だから頼みますよ」と言ったらしい。その後、代議士は「心配しなくても大丈夫ですよ」と言い、たまたま夫人と代議士の故郷が同じであることを知り、大いに盛り上がったそうだ。ラウンジで待っている犬鳴のところに戻ってきた夫人は満面の笑みで、「犬鳴さん有難う、これで安心したわ」と、上機嫌で帰っていった。

2月2日、試験の当日、夫人から電話があり、「いよいよ今日になったわ、合格発表を見に行き私はどんなパホーマンスをしたらいいのかしら」などと言っている。当然ながら、みじんにも合格を疑っていない様子だった。夕刻には学校で発表があるらしい。(結果を知らせて下さい)犬鳴はそう言って電話を切った。午後6時、何時ものように雀荘で遊んでいる犬鳴の携帯に夫人から電話が入る。「ね、犬鳴さんだめだったのよ」子供の受験番号は幾ら探しても見つからない。と言う。夫人は、何が何だか分らない、きつねにつままれたような声で聞いてくる。犬鳴は(分りました。すぐに秘書に聞いて折り返しますから)と言い、まず、ブローカーのO氏に電話して(Oさん、ダメだったらしいよ。ちょっと訳を聞いて電話してくれる)と言う。O氏も、エっと言ったきり絶句している。

それからが大変だった。雀荘の近くの喫茶店に駆けつけたブローカー氏と代議士の秘書に、犬鳴を交えた三人は、額を付き合わせ(どうなってるんだ)の押し問答。やがて秘書さんが「先生に聞いてすぐに連絡する」ということで、一旦解散することになった。--------