裏口入学 1

探偵日記 9月28日土曜日晴れ

朝起きたら左腕が少し痛い。理由を考えたら昨夜の出来事を思い出した。行きつけの年金スナック、別名(天国に一番近いスナック)「ほろよい」でのこと。金髪の田中嬢(といっても72歳)と楽しく飲んでいると、何か入り口のほうで騒がしい。ほろよいは入り口にカウンターが有って狭くなっている。首を伸ばして覗いてみると始めてみる顔の60際位の男と、常連の81歳が喧嘩している。その男の女房か、「おとうさんやめて」と叫び、かたや、ママと従業員の雅代が必死に止めている。チーママのみほのが僕のところに飛んできて「福田さん何とかして」と言う。僕は(あ~あ、この年で刑務所に行くのは嫌だな)と思いながら若い方の男の肩を掴んで(やめろ)と一喝するが酔っていて人のいうことなんか聞かない。一方の81歳も外に出て(さあこい)と言う勢いだ。二人とも(そのうち誰か止めてくれるだろう)と期待しているのがありありと感じる。しかし、出て行った以上やめるわけにもいかず、一応常連の81歳の味方を装い若い男の首を締め上げて、(俺が相手してやるから表に出ろ)と凄んだらやっと収まった。たったその位で腕が痛くなるのだから、もし、その男が「上等だ」と言って外に出たらどうなっていたんだろうか?恐らく留置場か病院のベッドで横になっていただろう。(笑)
お昼前に二日酔も治まったので事務所に出てこのブログを書いている。60歳と81歳が喧嘩して、70歳が仲裁に入り、70歳以上のホステス達が悲鳴を上げた秋の一夜の出来事。

裏口入学 1

前科3犯の家庭教師を調査したせいか、10年以上前、ある裏口入学に失敗した依頼人のことを思い出した。

世田谷区成城5丁目、かって、犬鳴のマブダチだった(本当?)石原裕次郎の家のあったところ。成城でもずば抜けて高級住宅の多い5丁目。その時の依頼人の家があった。主は都内で産婦人科を営むドクター。彼は経営の才にも長けていたのだろう。クリニックは大繁盛で稼ぎに稼いでいた。当然、脱税もしており、金庫番の妻は苦労させられていた。犬鳴はある弁護士の紹介で妻M子を知り、夫でクリニックの院長を被調査人とする素行調査の依頼を受けていた。金満家でバイタリティのある医者が大人しくしているはずはない。ご他聞に漏れず、自費で堕胎に訪れた銀座のホステスと不倫関係になっていた。マルヒは小男だがそのホステスは身長175センチはあるスレンダーな超美人だった。仕事の時は着物が主だったが(ふるいつきたくなるような女)だった。調査員から写真を見せられ、依頼人から「犬鳴さん、主人がお店にいっているとき、どんな遊び方をしているのか一度見てきて欲しい」と言われ、仕立て下ろしの一張羅を着て勇んで出掛けたことを昨日のように覚えている。

マルヒは借りてきたネコのように小さくなって飲んでいた。横には上客を逃がすまいとばかりにそのホステスがピッタリと寄り添っている。(あんまり遊び慣れてないな)と思ったが、依頼人には、(大はしゃぎしていましたよ)と報告した。「そうなんです。主人は若い頃から銀座で遊んでいますから、またいい顔をしているんでしょう」依頼人は、自分の夫が如何に遊び上手で良くもてるかを自慢げに話した。犬鳴はもう一度行ってみたいなあ。と思っていたので、(これからあの女性と奥さんは戦わなければならないかもしれません。そうなった時のためにも、もう少し彼女の行動を見たいと思いますが)と提案すると、依頼人は、「そうして下さい。あんな職業ですから主人一人を相手にしている訳ではないでしょう。主人は嫉妬深い人ですから、自分以外に恋人が居ると分ったら嫌になると思います」と言い、犬鳴の希望と一致したが、一方で、犬鳴は、ふ~ん、この奥さんは結構頭がいいなあ。と感心した。この種の調査では、必ずマルヒと相手女性の仲を壊して欲しい。といったリクエストがあるものだ。依頼人は早くもそんな状況を想定しているらしい。

結局、依頼人と犬鳴探偵事務所はその後かなりの期間付き合うことになり、二人いる子供のうち弟の進学についても相談されることになった。----------