探偵日記 9月27日金曜日晴れ
台風も東の海上に去りつつあるとかで爽やかな朝を迎えた。といってもここ数日タイちゃんの散歩を中止しているので、外に出たのは新聞を取り込む8時過ぎ。朝食の後早々と仕度して事務所へ。
昨日は午後7時埼玉に行き9時まで打ち合わせ。そのあと、目黒で人と会ってとんぼ返りで帰宅。所用時間1時間15分。道路が空いていれば車は便利だ。
家庭教師 6
調査も終盤に差し掛かり、犬鳴の持参した報告書をもとに今後の方針が練られた。10万円単位の商品券等細々とした出費はともかく、5000万円だけは取り返したい。と言う依頼人夫婦と、夫の友人の、元警視庁刑事を交えての会議は長々と続いた。犬鳴は求められたときだけ発言したが、それ以外は黙ってみんなの話を聞いた。(自分や事務所の考えは報告書の所見で述べている。)犬鳴にしてみれば、調査は中途半端で、もう少しBの動きを監視し、立ち回り先や交友関係を調べて見たいと思っている。しかし、調査の継続を主張すれば、場合によっては(商売根性を出した)と誤解されかねない。いや、そう誤解する依頼人が多いのだ。この依頼人も溜息混じりに漏らした「1年前、犬鳴さんに相談した時頼んで置けば良かった」と。だから何時も言ってるでしょう(調査は転ばぬ先の杖)だって。しかし犬鳴は何も言わず曖昧に笑って誤魔化した。
やがて、元刑事さんが提案をする。「とにかく奴を呼んで詰めましょう。そしてとにかく金を返させることが先決だ。いきなり刑事告訴っていう手もあるが時間がかかるしお金が戻ってくる保証は無い」確かに正解である。しかしだ、Bがお金を返すとは到底思えないし、返したくても持っていないだろう。刑事さんは言う。「まだ2~3000万円は持っているだろう。とにかく刑務所に行きたくなかったら持って来いと言って、不足分は銀行に借りさせるとか、サラ金に借りさせればいい」甘いな~。Bは、10,11,12月の3か月分の月謝200万円余りを先取りした挙句、冬休みの特別料金(なんと120万円)を、やいのやいのと催促しており、正体を知った依頼人が渋ったら、(10万円だけでも現金で頂けないか)と言ってきている状況で、とても手持ちのお金があるようには思えない。ましてや住所も曖昧な前科3犯に融資する銀行は無いだろう。
数時間後、Bに2週間の猶予を与え、その間に全額返すこと。逃げたら即刑事告訴に踏み切る旨を言い誓約書を書かせることで、一応の結論が出た。「犬鳴さんはどう思われますか」依頼人が聞くので、隣の元刑事さんを慮り(それで行ったら如何ですか。僕は、Bはもう文無しだと思いますし逃げると思います)と言って、(ちょっとこの後の予定がありますので)と断って退散した。
帰路、運転しながら考えた。17年前の新聞の記事で、(前科3犯)と書かれたBは、当時の事件で4犯になっているだろうし、その後も同じ犯罪で逮捕されているかもしれない。(臭い飯)には慣れっこになっているはずだ。ただ、好んで入りたくも無いだろう。今回逮捕されれば、5~6年は刑務所暮らしだ。そうなれば、あの若い女性とホテルに行くことも出来なくなるし、好きな競馬もやれなくなる。一方で、本件には明らかに共犯もいる。もしかしたら、仲間がBの窮状を救ってくれるかもしれない。元刑事さんの作戦が或いは功を奏す可能性に期待して、家庭教師に関する調査を終了した。-----