家庭教師 4

探偵日記 9月25日水曜日雨

台風の影響で天気が悪い。今朝家を出る時も霧雨が降っている。僕は雨が嫌いだ。まあ、好きだという人は少ないだろうが、僕の雨嫌いは特別なような記がする。今日など、本当はお休みしたいところだが、事務の高ちゃんが定休のうえお給料日であり、関係ない僕も何となく責任を感じて出る羽目になってしまった。9時半、事務所に到着。案の定誰もいない。所長と調査員一名は関西出張。他の連中もそれなりに予定をこなしている。毎月25日(たまには24日や23日のこともあるが)雨以上に嫌いな日だ。楽しみに思ったり待ちどおしく感じたのは何時のことか。
僕がまだ独立する前、神田の探偵事務所で働いていた頃のこと、どういう訳か給料日は28日だった。その頃の僕はカードも持っていなかったので、27日は関係なかったし、僅かばかりの給料なんかあてにしていなかった。毎月、給料の2,3倍は稼いでいた。勿論事務所に迷惑をかけないでだ。当時の僕は仕事が速いことで有名だった。所長が「福田君これをやってくれ」と言って、所長なりに、(まあ、1週間ぐらいかけて)と思いながら指示してくる案件を2,3日で終え、残った時間で営業したものだった。

あれから数十年を経た現在、当事務所の若い調査員は毎月の給与以外の収入を得る努力をしない。仕事の無いときは事務所でボーとしているか、テレビのくだらない番組の話で盛り上がる。(犬も歩けば棒に当る)というではないか。---

家庭教師 4

前科3犯のBはこれからが稼ぎ時である。だいたい中学入試は年明けの1,2月に行われるので、塾も家庭教師の勉強も追い込みに入る。子は子で一生懸命励むが親としても出来るだけのことはしたい。と願い、ついついBらの甘言にひっかかってしまう。依頼人の妻から電話がかかる。「あの~犬鳴さん。明日、翌月分のお月謝を払わなければならないんですがどうしたら良いでしょうか」(幾らですか)「120万円です」じぇじぇじぇ~。あまちゃんではなくとも驚くだろう。たった1ヶ月の月謝が・・・・・

依頼人の経営する会社は時流に乗って大躍進を遂げている。これは調査員の犬鳴にも十分理解できた。そしてこうした親心が彼らの格好のターゲットになるのだろう。Bが再び刑務所暮らしになる日も近い。ではどんな方法で追い詰めるか。元、警視庁の公安の刑事さんは、「刑事事件にするぞと脅し返金させる」と言い、別の元、知能犯係の刑事さんも同様の意見だった。
ただ、犬鳴の考えは少し違った。Bは通算5年以上刑務所暮らしを経験しているはずだ。生半可な脅しは通用しないだろうし、依頼人が渡したお金はとっくに解けているだろう。ギャンブルと女、いくらあっても足りないはずだ。犬鳴は思う。仮に自分がBならば、まず、お金を受け取った覚えはない。と言い張るだろう。刑事さんらは、「お金を渡した経緯とその時のBの文言を詳細に申し立てれば詐欺罪は成立する。」と言っている。裏口入学そのものが有ってはならないことだから、それを口実にして金員を得る行為は違法である。しかし、Bが頑として(受け取っていません)と否定したら立証できるだろうか。何しろ大金である。例えば、金融機関から下ろせば記録に残るはずだし、渡した日時を明確に示せば大丈夫。というのが刑事さんたちの考えだった。

じゃあ、仮に、たんす預金だったらどうか。依頼人が、そのお金の出所を隠さなければならない。と考えたら。--------------