家庭教師 1

探偵日記 9月20日金曜日晴れ

今日で3日タイちゃんの散歩を休む。体調は良いが何となく罪悪感に苛まれ変な気持ち。そのタイちゃんは、肩を自分の足で掻き毟り、出血をするなど痛ましい状態である。早速、動物病院に連れてゆくと、「爪の雑菌が入り化膿したため」だと言う。患部の周辺の毛を刈られ塗り薬をべったりとつけられている。もしかしたら僕が散歩をしないのでストレスが溜まったのかな。
午前中雑用を済ませ12時過ぎに事務所へ。


家庭教師 1

僕の幼少時から少年時代にかけて、鄙びた漁港の村には幼稚園もなく、ましてや「塾」など気のきいたものはなかった。小学校に入学するに当って、とりあえず、自分の名前と数を10まで数えれればOKだった。僕の1~2年前から主流はひらかなになっていたので、(ふくだただし)と書ければ良かった。中学3年生になり、高校受験のため僕らは競って、先生の下宿で特訓を受けるようになった。これが今風に言えば「塾」である。僕は数人の仲間と一緒に、山口大学を出て、僕の中学校に赴任してまだ2年目の女の先生の下宿に行くことにした。年齢は24歳。小柄で可愛い先生だった。

数日前、ある会社社長から電話が入り、「家に来ている家庭教師を調べて欲しい」と言われた。昔、家庭教師というタイトルの映画を見たことがある。その家庭教師は女性で、勉強を教えるはずの子供にあらぬことを教える。といった内容だったと思う。また、子供の家庭教師と母親がよんどころない関係に堕ちる。という話も稀に聞く。少々妄想癖のある僕は、「家庭教師」という言葉の響きに特別な感情を覚えてしまう。そんな気持ちで社長と会うと、勿論僕が想像するようなものではなく、単に、「何だか少しおかしい」と言う。社長も、何がどう。とはいえない漠然とした不安で、妻も同様の思いを持っているという。社長方は女の子3人いて、とりあえず、長女の中学受験のために雇っているらしい。家庭教師の名前はA。東大を首席で卒業したが役人になる気もなくぶらぶらしているうちに50歳を越え、これまで塾の講師をしながら過ごしてきた。勿論結婚はしており、女児2人の父でもある。

子供たちがものすごくなついており、今度先生と高尾山にハイキングに行く約束もしている。お勉強の効果も少し出てきた。ただ、「報酬が高すぎるんじゃあないか。ということと、何処の大学にでも入れてあげます」と言っている。のが気になるらしい。以前ちょっとした物を贈ったので住所はわかっている。と言って、港区のマンションの住所を知らせてきた。-------