家庭教師 5

探偵日記 9月26日木曜日曇り時々雨

昨夜も少々飲みすぎた。散歩もやめている上暴飲暴食ではまた血糖値が上がるだろう。と反省し、今日は車で出掛けた。そうすればお酒は飲めない。それと、今日は午後7時に埼玉県のほうに行かなければならない。報告書を持って。ご依頼人にとって余り良い結果ではないので気が重い。
今朝、古くからの知り合いである弁護士さんから「身元調査をやってくれ」と言って電話がかかった。大事な顧問先の会社社長のお嬢さんの結婚話だという。したがって、お相手の調査だ。44歳でバツ1、今は会社を経営しているらしい。調査に予断は禁物だが(良い結果は期待できない)と思い、先生にもそう告げた。勿論僕の予感が外れてお嬢さんにふさわしい優しい男性ならばそれは結構なことだ。すでに7回の結婚を経験している僕は、離婚経験者の総てが(よろしくない)と言っているのではない。むしろ、過去の失敗を肝に銘じ再チャレンジするのは大いに賛成だし、今度こそ充実した結婚生活を送って欲しいと思う。しかしである。過去の離婚原因が問題で、どうしても治らない病的な性癖や、持って生まれた根性は容易なことでは変わらない。まあ、僕のように、過去の離婚が全て(相手に逃げられた)ものだというのもいただけないが、僕は思う。世の中の喜怒哀楽は公平で、一人の女性(それに伴う子供達)を、死ぬほどの苦しみを与え不幸のどん底に落とした男が幸せになることは絶対にない。勿論その逆も。

家庭教師 5

最後の仕上げにBの身元をしっかり抑えておこうと思い、顧問弁護士に依頼して、Bが住む港区の区役所から住民票と戸籍謄本を取り寄せてもらうことにした。普通第三者の公簿は簡単に取れない。何時も愚痴るように(個人情報保護法)が調査の邪魔をする。しかし、本件の場合、最終的には刑事告訴するかもしれず、そこまで行かなくともBに渡した5000万円の返還請求を起こさなければならない。したがって、弁護士は(正当な理由)があるので大威張りで請求できる。ところが、数日後、弁護士事務所の女性から電話があり、(いずれも該当無しで戻ってきました)と言う。変だな~Bの部屋のメールボックスに港区の保険課から郵便物が届いていたのに。犬鳴が異議を唱えると女性も困ったような声で「どうしたんでしょう」と言う。犬鳴は(分りましたもう少し調べてご連絡します)と言って電話を切り、すぐに港区役所の保険課に電話を入れた。

文京区の弁護士事務所ですが、今お宅の住民課から申請した住民票が該当無しで戻ってきました。そのことについて少しお尋ねしたいのですが、実は、該当者のマンションにお宅から郵便物が行っていたので、よもや住民票が無いとは考えてもいなかったのです。保険課では港区に住所を持っていない人にも何らかの連絡をすることってありますか?犬鳴がそう聞くと、「いいえ、そんなことはありません。もしお差し支えなければその人の名前を教えて頂けますか」と聞いてくる。うん、なかなか親切な人だ。犬鳴はBの名前とおおよその年齢を告げた。

少々お待ち下さい。と言って、パソコンを開いている気配があり、やがて、「ああ、分りました。Bさんから、(事情があって住所移動が出来ないので転送して欲しい)と言われていますので、一旦正規の住所に送って、戻ってきたものをそのマンションに転送しているのです。」要するに、転送不可の郵便物を、まず住民登録地に送り、戻ってきたものを改めて現在の住所に送りなおしている。Bはそんな手間を港区の保険課にかけていたのだ。係りの女性は「Bさんは港区に住所を持っています」犬鳴がすかさず(じゃあその住所はどこですか?訴訟のためにどうしても必要なんですが)とさりげなく聞いたが、さすがに公務員だ。「個人情報保護法でお教えすることは出来ません」ときた。彼女は今間違いなくパソコンを開いてBの個人情報を見つめているはずである。例えば、完璧でなくとも「南麻布の、とか、北青山一丁目の・・」とか口走ってくれるのを期待した犬鳴だったが、そうは問屋が卸さなかった。或いは、犬鳴の腕が落ちたのかーーーーーーーー