探偵日記 9月24日火曜日晴れ
今日でかれこれ1週間タイちゃんの散歩をサボった。それなりに体調は良いが少々罪悪感に苛まれる。タイちゃんの僕を見る目もしらじらしい。
今日は朝食を済ませてすぐに支度をして外出。勿論事務所に行くためである。9時半少し前事務所に着いた。入れ替わりに、所長と調査員Fが関西方面の尾行調査のために出るところだった。今日から1週間、二人は某所で張り込みを行う。調査はそれほど難しい内容ではないが、場所が厄介である。というのは、(張り込みづらい)と言う意味だ。最近は、住民パワーが強くちょっとでも怪しいと思えばすぐ通報する。幸い、「探偵業法」のお陰で、やって来たパトカーも身分証明を見せれば「ご苦労さん」と言って引き上げてくれる。しかし周囲の目は複数あり、今度は別の住人から通報があって、「通報があれば無視できないんです」(若いお巡りさん)となる。昨今探偵も楽じゃあない。
家庭教師 3
しかし、マルヒがBのような男の場合、探偵も堂々と調査に臨める。何しろマルヒは前科持ちで、現在も犯行中なのだ。偽名を使い、出来もしない裏口入学の斡旋を持ちかけ、すでに5000万円という大金をせしめている。資産家で、大きな会社を経営する依頼人の家庭には3人のお嬢さんがある。仮に、間違ってご長女が希望する付属に入れたら、後の二女三女も彼の優良な見込み客となる。怖いのは(ご長女の実力で合格した)場合である。マルヒは、自分の工作(実際には何もしないのだが)の成果を強調するだろうし、父兄も感謝するだろう。現に、父親は「詐欺師でも何でもいいんです。娘をあそこに入れてくれさえすれば」と犬鳴に言っている。犬鳴は、(200パーセントそんなことにはなりません。もし合格したならそれはお嬢さんの実力です)と言って、少しでも早く縁を切るように勧めているのだけれど、親心は複雑であるらしい。また、すでに支払っている5000万円に対する執着もあろう。
調査は順調に進んだ。マルヒの犯した過去の犯罪の詳しい内容や、刑期など。加えて、彼の人生のあらかたも判明した。現在は、1ルームのマンションで暮らしているが、一つには、(いざという時に逃亡しやすいように)しているのかもしれない。時々、コンビニで送金する他、必ずスポーツ紙を購入。「マルヒは競馬が好きなんでしょうか、大井や川崎の草競馬から土日の中央競馬の予想を真剣に行ってます」調査員が笑いながら報告してきた。また或る日は、依頼人方からの帰路、レストランの前で若い女性と合流、食事の後ラブホテルに直行。この日は朝帰りである。
マルヒのポジションは分らないが、詐欺集団は10人以上で構成されているらしく、場面場面でいろんな人物が登場する。昨日は、お嬢さん学校で有名なS学園の関係者というOが現われ、「お任せ下さい」と、太鼓判を押して帰っていった。勿論犬鳴探偵事務所で尾行したが、中野区弥生町の木造アパートの一室に入った。当面、グループは貧乏みたいだ。---------