探偵物語 12

探偵日記 7月16日水曜日 晴れ

散歩を済ませて5時40分家を出る。6時20分、秋葉原のホテル前に到着。9時過ぎに出てきたマルヒは案の上、小旅行出来る程度の鞄を持っている。つくばエキスプレスに乗るのかと思ったら違う。山手線で新橋へ、都内の地理に暗い人なのか散々迷って「第一ホテル」へ。フロントで鞄を預け、外出。うわ~今日もお泊りか。と思ったが、1時間後に戻ったマルヒは、羽田空港行きのリムジンにな乗った。調査員の一人は素早くチケットを買いバスへ。もう一人は間に合わずタクシーで追尾。楽な尾行である。やがて羽田から連絡が入る。「マルヒは千歳行きのチケットを買いました」と。

探偵物語 12

詳しくは書けないが、岩手県の山深い小部落にある会社の建物に特殊工作を施し、調査員一人を残し帰京。以後、毎日のように報告されるレポートを依頼人に届ける日々が始まった。喧嘩相手の致命的な情報が手に入るのだから大喜びである。まあ、非合法な手段で入手した証拠。ということになるので、裁判で活用できるかどうか、後は弁護士の腕次第ということになろう。依頼人には、東大在学中に司法試験に合格し、その後、米国の弁護士資格も得た超有能な先生がついている。この仕事もその弁護士事務所からの斡旋である。

事務所にとってもいい仕事だったが、いいことは長続きしないものである。或る日、依頼人の会社を訪問したら何だか慌しい雰囲気に包まれている。顔馴染みになっていた事務の女性に(何かあったんですか)と聞いてみると、「社長がお亡くなりになりました」と。そういえば、異常に肥えた人だった。後で、心筋梗塞で自宅で倒れそのまま帰らぬ人となった。会社は上場を目前にしていたが、大黒柱の創業者が不在では上場どころか存続も怪しくなり、あっけなく消滅してしまった。--------------