探偵物語 11

探偵日記 7月15日火曜日 晴れ

今日は横浜の家庭裁判所から離婚裁判の相手方を尾行する仕事で、僕も参加することになった。東京の弁護士事務所を介しての依頼で、本当の依頼人は被告の妻。なぜ妻が被告かというと、原告の夫が妻に対し理不尽な理由で離婚を求め、調停が不調に終わって裁判に移行したものである。夫は、数年前から愛人を作りほとんど家に帰ってこなくなり、以後、連絡は弁護士事務所を通じて取らざるを得なくなっていた。勿論、自分のほうに有責事実が有るとは言えず一方的に妻を非難するばかりである。妻は、ならば夫の正体を明らかにして、(だから離婚には応じられないのだ)と反論したいようだ。いずれにしても延々と泥仕合を続けることになる。かって愛し合った男女は数十年を経て憎しみ合い、昔好きだったところも、嫌悪の対象になってしまう。人間の業というのか、それ以前の、その人の品格なのだろうか。こんな案件に遭遇した時必ず思うことがある。酸いも甘いも経験してきた僕でさえ、夫婦というか、男女の在り方を考えさせられるのだから、若い調査員らはどのように感じ取っているのだろう。(だから結婚なんかしたくないんだ)と思うものも居るだろうし、僕のように、懲りない男も居る。島倉千代子じゃあないが、「人生いろいろ」だ。

探偵物語 11

昭和天皇が崩御、年号が「平成」に変わってもバブル景気は衰えを知らず、衣食足りて、人は健康志向に目覚め多種のサプリメントが出始めた頃、岩手県の山中の名も無い会社が、川や田んぼの汚水の中の苔から(癌に効く)もの凄い成分を発見した。この会社は、地方の第三セクター絡みで設立したものらしかったが、年商も1千万円に満たない小規模な業容で、代表者は、ややブローカー的な志向を持っており、特に、北海道の資産家から援助を受けていた。そんな篤志家の一人が僕の依頼人になったのだが、こちらも多少山っ気のある人で、(その会社で販売する商品の特約総代理店)契約を交わしていた。それまでは取るに足らないような商いだったのだが、大発見後、在京の製薬会社がこぞって取引を求めてきた。有頂天になった代表は片っ端から応じたため、依頼人との専属契約が反故にされた。怒った依頼人が弁護士を代理人として訴訟に発展。僕の事務所で、代表の行動及び会社の業務の実態を調査することになった。

探偵事務所としても大きな案件である。まとまった着手金を貰い調査に取り掛かったが、何しろ現場は(またぎの里)に近い山深い集落の中にあって、見慣れない人や車が村道を通るたびに家の中から人が飛び出してくる。そんな排他的な環境だった。それでも一通りの基礎調査を終え、次は特殊調査に入らなければならない。依頼人は、自分の会社で扱う約束の商品を、契約に違反してどこかに売っているのではないか。調査の目的はまさにこの点に絞られていた。

某日、10名の調査員を連れて盛岡のホテルに陣取った僕達一行は、日中は市内で遊び夜になってからレンタカーに分乗して山奥の集落に向かった。ある作業をするために。--------