探偵日記 7月24日木曜日 晴れ
東京も昨日梅雨明けとなってこれから暑い日が続く。元来、暑さには強かったはずだが、ここ数年心身にこたえるようになった。それでも、寒い冬よりはうんといい。
今日は4時にすっきり目覚めたので散歩に行こうと思い、タイちゃんを呼んだがまだ寝ぼけている様子で僕に近づかない。（どうしたのタイちゃん、お散歩に行こうよ）と誘ってみるが、尻尾を振るものの僕が手を差し伸べると後ずさりしたり逃げようとする。本当にジャックラッセルという犬は厄介な性格で買主をからかう。それでもようやく階下に下ろし外に連れ出すことに成功した。50分ほど歩きはあはあ言いながら帰宅。彼も暑さには弱いようだ。月末だというのに集金が思うようにいかない。すでに1ヵ月半、調査をやっているのにいざ精算となると言を左右にして支払ってくれない。ひとかどの経済人なのにである。（自分が期待したような結果が出ない）からと言う。しかし我々探偵は事実を糊塗したり捏造はしない。好材料が出ないのは依頼人自身の誤算であり「探偵」のせいではない。一方、肝心な場面でミスをした案件があり、（成功報酬は諦めなければならないだろうな）と思っていたら、若い依頼人から電話がかかり、「近々、費用の精算をさせて頂きます」との由。人格の相違か。
探偵物語 18
警視庁Ｙ署の刑事部屋に居て、その後、行政書士の事務所を開いたＫさんから電話がかかり「僕の顧問先の関係者で、某社の社長が調査を依頼したいって言ってるから会ってやってくれないか」と言う。願ってもないことで、二つ返事で承知し、その日の午後、赤坂のホテルで依頼人の社長と会った。年齢は60歳。頭は禿げ上がっているがスタイルの良い社長は、座るなり「いや、簡単な調査で、自分でやってもいいのだが何しろ忙しくて、それで君にお願いしようと思って、Ｋさんに紹介してもらったんだ」と言う。僕の一番嫌いなタイプの依頼人である。Ｋさんの紹介じゃあなければ（じゃあご自分でどうぞ）と言って、席を蹴って帰るケースだ。しかし、当時46歳になっていた僕は、黙って話の続きを聞いた。
「いや～実は家内が数日前から帰ってこなくて、母親にも探させたんだが判らないって言うものだからさ～」ときた。なんだよ、それが簡単な調査で、自分でも出来るってかよ。目の前のコーヒーを顔にぶっかけてやりたい衝動に駆られたが、Ｋさんの手前それは出来ない。その頃の我が事務所は20数名の探偵を抱え、それでも足りないくらい多忙を極めていた。何か口実をもうけ、やんわりと断ることも考えたが、結局、押し切られて引き受けてしまった。家出をしたらしい妻は24歳という。ん、なんだそれ。と思ったが、話を聞いて二度驚いた。－－－－－－－－－－－