探偵日記


2020・12・11金曜日 晴




9時半、中央線に乗る。車内で若い茶髪のあんちゃんに思い切り足を踏まれた。(痛い)と言ったにもかかわらず知らん顔。(あ失礼)とでも言えばいいのに。と思ったが、その程度の人間だろうと思い、ちょっと睨んでやっただけですませた。最近はこんなことぐらいでは腹も立たない。




不倫 14




某日、事務所に若い男が訪れた。大手広告代理店のNさんの紹介だという。僕の部屋で相対し、それが癖になっている僕は通り一遍の挨拶を交わしながらその依頼人を観察する。容貌はごく普通で安定した生活を送っている人特有の余裕も感じられた。ただ、対人恐怖症に近い人らしく言葉がすんなりと出てこずやや吃り気味である。(どんなご依頼ですか)相手に圧力をかけないよう柔い調子で聞いてみる。探偵事務所を訪問しているからには何らかの調査を考えている筈である。それがちょっと言いにくいものかもしれず、また、依頼する決心が固まっていないこともある。暫くとりとめのない雑談を交わしたが、思い切った感じで、依頼内容を話し始めた。




交際中の女性の身元を調べて欲しい。特にどうということはない内容だったが、マルヒが大蔵省(現、財務省)のキャリアの女性。というくだりで、驚くというか大いに興味をそそられた。しかも、依頼人との出会いが俗に言う(デリヘル)で、独身の彼が呼ぶ形で、彼の部屋で過ごすという。僕は、その方面の経験は皆無なので(それってどんなシステムなんですか)と、1から説明を受けた。依頼人曰く「銀座にあるその種のクラブに登録すると色んな女性を派遣してくれる」らしい。(それって違法じゃあないんですか)と聞くと、「いや、今は合法なんです」との由。自分ではうまくガールフレンドを作れない依頼人はもっぱらそのクラブを利用しているが、その中でたいそう気に入った女性がいて、と、依頼人はにんまりして、「最近は彼女だけなんです」とのろけた。・・・