探偵物語 17

探偵日記 7月23日水曜日 晴れ

昨日は早めに阿佐ヶ谷に帰って、駅前の旬菜「成海」で食事する。その後、例によって、天国に一番近いスナック「ほろよい」にひっかかり、2~3曲歌って帰るつもりが11時近くになってしまった。今朝4時25分、タイちゃんの鼻息で起こされ、30分家を出る。こんな日に限って長く散歩したがり、1時間10分、駅前から杉並区役所の方まで大きく回って、それでもまだ帰りたがらないタイちゃんに哀願してやっと帰宅。少しゆっくりして事務所へ。

探偵物語 17

大阪から東京の大学に入学した依頼人は、秀才に加え美貌の持ち主だったが、本来晩生だったのだろう。恋人の出来ぬまま数年過ぎ、やっとそれらしい男性と回り逢ったもののその恋は成就しなかった。そして、失意の果てに精神的に病んでしまったようだ。一通り話を聞いた僕は、(大変難しい調査になるし、費用も安くない)ことを話し、明日、もう一度お母さんにお目にかかりたい。と伝言して、美貌の依頼人と別れた。翌日、事務所にやって来た母親に(僕は医者ではありませんのでもしかしたら無責任な言い方になるかもしれませんが、お嬢さんは精神適に疲労しているようだから、病院に行って診察してもらい、出来れば大阪に連れて帰ることをお勧めします)と言うと、母親は「ああそうですか、でも私の言う事を素直に聞くような子じゃあありません。所長さん、費用のほうは私が責任持ちますから娘の気の済むようにしていただけませんか」と言う。最近、とみに多くなったこの種の人たち。仮に、神経科に通院しても大量の薬を与えられるばかりで、これといって最良の処方など無いのが実情である。

結局、母親の申し出に沿って色んな調査を行い、その都度、依頼人の理解は得たが、依頼人の「妄想」は果てしなく、遂には、「所長さん、彼らに買収されましたね」と言うひと言で、本件調査は終了した。探偵事務所には時々こんな相談が入る。(新しく購入したマンションの自分の部屋の上に、もう一つ秘密の部屋があって誰か住んでて、私の日々の行動を監視している)とか、(留守の間に誰かが入ってきて、私の好きなお菓子を盗んでゆく)などなど、そう思うと、「俺はM電機の重役だ」と言って、色んな探偵社をハシゴした依頼人なんか可愛い人だったのかもしれない。-------------