探偵物語 19

探偵日記 7月29日火曜日 晴れ

昨日今日と清々しい朝を迎えた。午前4時過ぎ、タイちゃんを連れて外に出ると、少しひんやりとした空気に包まれる。タイちゃんの気の向くまま僕が引っぱられう格好で歩く。すでに12歳半の彼は目や耳が衰えてきたようで、時々、何かにぶっつかったりする。数年前まで、遠くに居る犬にも敏感に反応して大騒ぎしていたのに、最近はどうかするとすれ違っても気付かないこともある。わが身と照らし合わせてうら悲しい気持ちにさせる。友人宅の愛犬はもう歩けないらしい。「散歩がしたい」という彼の気持ちも分るような気がする。我が家のタイちゃんもあと数年で(おむつ)の世話になるかもしれない。まあ、せいぜい元気なうちに好きなように散歩させてやろう。

探偵物語 19

依頼人は田園調布でレストランを経営している。勿論妻もあるが、10年前、レジを任せている女性と関係し、それが発覚して妻とは別居状態になっているらしい。商才はあるようで、レストラン経営の他に不動産のブローカーみたいなことをして、かなり儲け経済力はありそうだった。レジの女性は離婚経験者で一人娘を抱え近くのアパートで生活していたが、依頼人と不倫関係になってから、依頼人の家に入って、娘を交えての新生活が始まったという。当時中学生だった娘はやがて美しく成人した。

ところが、信じられないことだが、依頼人の愛人である女性が、(娘の面倒も見て欲しい)と言ったらしい。もとより倫理観の乏しい依頼人は、母親の留守に娘を強姦し、自分のものにした。以来、奇妙な三角関係が続けられ1年経った。そのうち、母親のほうは、(私が居るとやりにくいでしょうから)と言って家を出てしまい、40歳もの年齢差のある男女の夫婦ごっこが始まったが、娘は、何をしても(心ここにあらず)といった風情で、依頼人としてはいまいち物足りなさを感じていた。先輩愛人の母親は相変らず勤めには出てくるが依頼人とは距離を置く生活となり、たまに依頼人がちょっかいを出しても体よく断られる始末で、後に、依頼人に「あの母子にはめられた」と言わしめた。

娘との関係に不安を感じ、何としてでも強固な因果関係を築こうと考えた依頼人は、別居中の妻に無断で離婚届を出し、その日のうちに、娘との婚姻届を提出、晴れて正式な夫婦となって、2週間過ぎた日の夜、ベッドの中で「もう俺達はきちんとした夫婦だ。したがって、俺の財産は総てお前のものだよ」と囁いた。しかし、これを聞いた娘は仰天し、翌日、着の身着のままで家を飛び出してしまった。そして数日後、弁護士を通じて、(婚姻関係不存在)で提訴されることになった。狡猾な依頼人は、提出された婚姻届が有効になる14日間まで黙っていたものである。しかし、一旦提出された婚姻届を解消するのはかなりの困難を伴う。依頼人は、娘の筆跡を真似、三文判で捺印したが、このことを証明するのは容易ではない。そんな中、我が探偵事務所に、(新妻の家出人調査)が依頼されたのである。------