探偵日記

探偵日記 11月13日木曜日 晴れ

一昨日少し風邪気味だったが予定していたことがあり、帰宅も23時前ぐらいになった。17時に銀座の画廊へ。小社の顧問税理士K先生の個展に行く。先生はあるとき絵画に目覚め、最初は自分の書いた風景画を本にして、顧問先にくれていたが、だんだん絵の世界にのめりこみ、あちこちで個展を開くようになった。画風も変わって最近は抽象画になり、そのほうのセンスの無い僕など見てもさっぱり分らない。しかし、良く見るとタイトルが何となく想像でき、(なるほど)と思える。個展を出て、最近とんとご無沙汰のバーのママと食事して、そのあと久しぶりに店に行った。というのも、先日、このママの紹介だという会社から調査の依頼があって、そのお礼の意味もあった。10坪ばかりの店のカウンターでママと向かい合って、下手な歌等歌っているうち10時近くなり、慌てていつも送ってくれるポーターのSさんに連絡して帰宅。
そうした次の日、毎回、奇数月の第二水曜日に行われるゴルフコンペ「二水会」に参加したのだが、朝から体調がすぐれず、迎えに来てくれた車の中でもずっと寝ている有様。それでも午前中は何とかまあまあのスコアだったが、午後は別人のようになり、くたびれ果ててシャワーもせずに帰宅し、汚い話しながらそのままベッドに倒れこんだ。(僕は70年間風邪なんかひいたことがない)何時もそんなホラを吹いているのでクリニックにも行けず(葛根湯)を飲んで寝る。
それでも今朝はタイちゃんに起こされて、4時40分、散歩に行き、朝ごはんを食べてまた寝て、正午近くに事務所へ。

娼婦 11

3000万円の現金を見せられ佳枝はぼーっとなった。これは夢ではないだろうか。いや、びっくりカメラだ。声も出ずに呆然としていたら、客の男性が「すみません少なかったでしょうか」と言うのが聞こえた。その言葉も遠くから聞こえるようで実感が無かったが、何時までも黙っているわけにもいかず、(はい、いいえ)などと意味不明な返事しか出来なかった。お金欲しさに思い切って入った世界だが、もう4年近い年月が経った。これまで、決まった金しか払わないのに、あれもしろこれもしろ。と言うかと思えば、鞄からセーラー服を取り出し、ベッドに入る前に、これを着てくれ。何て言う少々変わった客もいた。稀に5000円ぐらいチップをくれる客もあったが、最近はそんな人も現われなくなり、暢気な佳枝も少しばかり疲労感を覚えても居た。

「こんなことをして失礼だったかな。」男性は後悔したように言って佳枝をじっと見つめ照れくさそうな笑みを浮かべている。やっと正気に戻った佳枝は、客の気が変わらないうちにと思い、それでも、男性の気を引くため思いっきりの演技で、(私はそれほどの価値のある女じゃあありません。お客さんなら、クラブやバーに行けばおもてになるでしょう。どうして私なんですか)と聞いた。佳枝はこれまでの逢瀬で、男性が本当に純真なこと、セックスもほとんど知らないこと、加えて、自分の技巧に心底まいっていること、などは十分に承知していた。ある時、佳枝は若い頃当時付き合っていた会社社長から貰った(性の教本)を男性に渡し、(これを読んで少しお勉強して)と言ったことがある。佳枝にしてみれば、母親が子供をあやすようなセックスもそれなりに面白かったが、正直なところ、時々物足りなくなるというか、たまには、我を忘れるようなひと時も欲しいと思うのだった。

その後色んなやり取りがあったが、結局、3000万円は佳枝のものとなり、クラブを辞める約束をして、夕方男性と別れた佳枝はまずお金を自分の口座に入金して帰宅した。200万円づつ機械に入れる女性を、羨望の目でみる人が居て(後ろから襲われるんじゃあないか)と思ったりしたが無事に終え、心から幸福感を味わいながら電車に乗ったことを生涯忘れなかった。翌日、クラブに出勤した佳枝は、責任者の男性に(長いことお世話になりました)と挨拶し、部屋に居た同僚の女性達にも(お元気で)と言ってマンションを後にした。

その日から、若い男性のオンリーとなった佳枝は、それまでのホテルではない、都心の最高級ホテルの一室での逢瀬を繰り返した。逢えば豪華なランチをし、ホテルのアーケードを歩く時、佳枝が商品の入ったケースに何気なく目をやると「買いましょう」と言って、服でももアクセサリーでも何でも買ってくれた。佳枝も彼にYシャツやネクタイ等の小物をプレゼントし、次第に髪型や服装を自分好みに変えていった。この頃になると、佳枝は彼との出会いを忘れ、昔からの恋人のように接し振舞った。宿泊するホテルも二人で話し合い頻繁に変えたりしたが、家を出た佳枝が彼にこんなメールを送った。(部屋番号は?)「2511号室です」(今日は有り難う。楽しかった)「僕のほうも」

家に帰ってシャワーを使いリビングに戻ると、険しい顔をした夫が「佳枝ここに座りなさい」と言う。めったに怖い顔をしない夫の様子に嫌な予感がしたが(ハイ、貴方、なんですの)と言って夫の前に座ると、「お前浮気をしているんじゃあないのか?」と言う。佳枝は、突然そんなことを言う夫を訝しげに見返し(どうしてそんなことおっしゃるの?)と返すと、夫は、テーブルに置いてある佳枝の携帯電話を開けて、「これはなんだ」と言って見せた。----------------