探偵日記 11月14日金曜日 晴れ
4時35分起床。40分、暗いうちに出て、まだ暗い中帰宅する散歩へ。阿佐ヶ谷の街にはまだ酔っ払いが沢山歩いている。中には酔狂で(あら、可愛い~)なんて言いながらタイちゃんにさわろうとする女の子も居たりで少々うっとおしい気持ちになる。今日、阿佐ヶ谷駅のホームから富士山が見えた。11時、事務所へ。
娼婦 12
しまった。とっさに佳枝はそう思ったが、哀願されて仕方なく結婚してやった。常々そう思っている佳枝は、平然と(なあに)と言って夫が持っている自分の携帯を覗き込んだ。そこには、(何号室?)と、彼に送ったメールが残っていた。(ああそれ、今私がしているアルバイトのことで、お客様に書類をもって行った時のものかな~)そう言うと、夫は次から次に彼とのやり取りのメールを見せ、一つ一つについて聞いてきた。ただ、佳枝もそうだが、彼のほうは至って簡素な文言で、(ありがとう)とか、部屋番号を告げるものだけだったから、夫も最後は納得せざるを得ない感じで質疑応答は終了した。しかし、数日後、再び、夫から「話がある」といわれ、子供達が寝静まったあと、リビングのテーブルで向かい合った。
「これについてちゃんと説明してくれ」と言って差し出されたのは大量の紙片で、携帯電話の会社から取り寄せた過去のメールを記録したものらしかった。佳枝の携帯はファミリー契約で夫名義になっていた。したがって、携帯電話の会社も夫の申し出では断れなかったのだろう。それらには、彼とのやり取りの総てが記され、金銭の授受を推測させる箇所もあって、前回のような弁明は通じなかった。ただ佳枝は(貴方の思い過ごしです。私は何も疚しいことはしていません)の一点張りではねつけ、終いには(そんなに私のことが信用できないんなら離婚しましょう)と、奥の手を出した。惚れて一緒になった妻である。しかも、可愛い二人の子まで居るし、最近は、佳枝の稼ぎに頼っている有様では夫のほうもそうそう強く出れなかった。しかし、その日から夫婦の関係は悪化し、毎日のように、「浮気をしているのだろう」と責め立てられた。また、階下の夫の両親にも二人の会話を聞かれたようで、姑等は、外出する佳枝を険しい眼差しで見送るようになった。
ベッドの中で浮かない顔をしている佳枝を見て、彼が「佳樹さん、何か困ったことでもあるんですか」と聞いてきた。彼は未だに佳枝のことを「佳樹」と呼び、言葉遣いも崩さなかった。佳枝は、そんな彼を、他人行儀で水臭いと詰ったこともあったが、その都度「ごめん」と言って謝るだけでいっこうにに変える素振りはなかった。彼は、佳枝に家庭があることは承知している。だから、佳枝が、(ごめんなさい、明日子供のことで・・)と言って、会うことが出来ないと告げても怒ったり、機嫌を悪くすることも無かった。(隠しててもしょうがない)そう判断した佳枝は、彼に、夫に携帯のメールを見られたこと、以来、執拗に責められていること、夫の両親も自分の素行に疑問を持っていること、など総てぶちまけた。彼が、面倒を嫌って自分から離れていっても仕方ない。単純で思いっきりの良い佳枝はそう判断したが、佳枝の話を聞き終え、ベッドの中で一瞬彼の身体が硬直するのが分った。ーーーーーーーーーーーーーー