探偵日記

探偵日記 1月16日金曜日 晴れ

昨日とうってかわっていい天気。友人で、昨日ゴルフをやった奴が居たけどお生憎様だ。しきりに僕を誘うが、彼は、高校時代野球をやっていたとかで、ドライバーが300ヤードぐらい飛ぶらしい。アプローチやパットなら負けない自信は有るが、どうにも同伴する気になれない。僕は明後日の日曜日サンサン会がある。幸い天気はよい予報。気合を入れてやりたい。

今朝ご飯を食べる時思い出した。今日は定期検診の日だった。大急ぎで支度を済ませ駅前のクリニックへ。血圧も正常。糖尿の血糖値も食後なのに124。「いいですね」可愛い看護師が褒めてくれる。連日かなりの量を飲み、脂っこいものを食べているのにどうして?「貴方は立派な糖尿病です」ふんぞりかえってのたもうたK病院の主治医さん。なんかの間違いじゃあないの。

新宿・犬鳴探偵事務所 2-2

 東京オリンピックを弾みにして日本は高度成長期に入った。池田隼人総理大臣が「貧乏人は麦を食え」と、問題発言し、マスコミは差別的な発言だと庶民を煽ったが、池田の云った言葉の真意は別なところにあって、貧乏イコール麦飯ではなかった。その証拠に、その後、健康に良いと我々は好んで麦ご飯を食べている。(安い上に体にも良い麦ご飯を食べて頑張って下さい)というほどの意味だったと犬鳴は勝手に解釈した。次に、今太閤ともてはやされた田中角栄が総理となって打ち出した(列島改造)によって、建設業をはじめ不動産、鉄鋼、資材関連など軒並みに好調となり、相乗効果で株式も暴騰し、昭和五十年の半ばから異常な経済状況を展開、後に、この時期を(バブル)と、人は呼んだ。
犬鳴と井口夫人が入った「あみもと」という店は、新宿駅東口から靖国通りを越え、歌舞伎町のさくら通りを二、三分進んだ突き当たりにある。小料理屋といっても大小の宴会をこなせる大店で、歌舞伎町で、夜の帝王と呼ばれるぐらい(それほどではないが)飲み歩いていた犬鳴は、勿論知っていたが、この日は、井口夫人が案内してくれた。夫人の馴染みの店らしく数人の仲居が親しげに挨拶して通り過ぎる。二人は小部屋に通された。井口夫人は飲み物や料理をてきぱきと注文し、ビールが来ると「ワンちゃん乾杯」と言って、機嫌よく飲み始めた。

 暫く他愛の無い話を続けていた井口夫人が、少し改まった感じでこんなことを言う。「ねえワンちゃん私のことどう思う。ううん、女としてってことじゃあないわよ。私が依頼してきた仕事のことだけど、ワンちゃん前に私に云ったわよね、もう調査はやめましょうって。でも私は続けてもらった。そのことだけど」そのあと、夫人はなぜか探るようにじっと犬鳴を見つめた。(どうって、貧乏事務所にとって井口さんは神様みたいな人ですよ。感謝しています。)犬鳴は、適当に当たり障りの無い返答を返した。「そうよね。すっかり事情は判っているのに、どうしてかしら、私っておかしいのかなあ」夫人はそう云って少し笑い顔になり、「まあ、ワンちゃんのことを気に入った。ということもあるのよ」という。
さらに、「ねえワンちゃん私のことずっと面倒見てね。」と言う。犬鳴は、(勿論、僕でよければ死ぬまでお付き合いしますよ)と応えたが、正直なところ夫人の気持ちを量りかねていた。すると、「こんなこと云うと失礼かも知れないんだけど、ワンちゃんの事務所って狭すぎるんじゃない。」夫人は酔った勢い。という感じでそんなことを云った。犬鳴は、井口夫人に限らず依頼人には、それとなく、(調査部は別な場所にある)という空気を作っていた。はっきり、どこそこに有ります。といったのでは嘘になる。相手が想像するのは勝手だ。しかし、井口夫人には通じなかったようだ。「これも余計なことだけど、私がお金を出すから広いところに移っちゃいなよ」と言う。ーーーーーーーーーーーーーーー