探偵日記

探偵日記 1月15日木曜日 曇りのち雨

昨日のコンペ(二水会)も2位だった。但し、日曜日の月例のようにハンデ負けではなく、優勝者の会社社長に圧倒された。18日のサンサン会は何とか万年2位の汚名を晴らしたいと思う。

反省を込めて、今日は朝食の後すぐに仕度をして出勤。9時40分、事務所に着いた。午後、2件の報告があり西新宿の会社まで行かなければならない。幸い、金曜日からの広島出張は月曜日に延期された。といっても僕が行くわけではないが、今週中に片付けなければならない案件があって、どうしようかと思っていたからだ。しかし雨は嫌だ。

新宿・犬鳴探偵事務所 2-1

 犬鳴は、叔父の本心はともかく、自分がしっかりダンスなぞ覚えようものなら、今でさえ女性問題が絶えないのに、ダンスを武器にますます派手に遊びまわるだろう。そうしたこともあって、その後、犬鳴はダンスと縁を断った。犬鳴は身長百六十五センチと小柄で、決してハンサムではないが、とにかく女性に良くもてた。一つには非常に口が上手く、加えて、まめである。犬鳴は常々、女性にもてる最大のコツはまめに限る。と思っていた。いくら美男子でお金持ちでも、(来るなら来い)という感じでは女性に敬遠される。おしなべて、女性というものは自尊心が強く臆病である。したがって、まず(私はこの男に惚れられている)と思ってもらわなければならない。次が波状攻撃である。特別な用もないのに繁々と電話する。それも同じ時間帯にすることだ。毎日毎日、お昼休みに電話がかかってきてたのに、その日に限ってなければ(どうしたんだろう)と思うのが人の心理であろう。しかし、相手にその気がなければ別だ。煩くかかってきていた電話が無くなれば(あぁ良かった)と、ほっとされるのがおちである。人間不思議なもので、毎日同じ時間に連絡があれば気持ちの何処かに(待つ)意識が生じる。職場でも同僚から「あら、今日は定期便無いのね」なんて冷やかされる。そして、あくる日も、そのあくる日もかかってこなければどうだろう。もしその相手の電話番号を知っていたならばかけてみたくならないだろうか。

 話を元に戻そう。「ワンちゃんご飯食べに行こう」と言って犬鳴を誘った依頼人は、犬鳴に特別な感情があったわけではないし、犬鳴のほうも、金払いの良い依頼人として大事に接してきたがそれ以上の意識は持たなかった。何より(依頼人と特殊な関係になってはならない)という掟を守っていた。依頼人の婦人、名前は井口早苗。これまでのやり取りで、彼女が世田谷区K町の大地主で、不倫をしている夫は婿養子、二人の間に子供はいなかった。夫の守は、代々井口家の小作人の家に生まれ、中学卒業後、庭師の見習いで井口家に出入していたところを、早苗の父親に見込まれ、逆玉で早苗の夫になった人物である。彼女は井口家の一人娘で、父親は生前、造園業を営む傍ら、区会議員でもあった。早苗の夫は、家業の造園業を継いだが、本来お人好しで、経営の才も無かったらしく、現在は形ばかり業者の態を装っている状態である。という程度の知識は得ていた。そして、婿養子で大人しいばかり。と思っていた夫は、岳父が亡くなるや本性を顕した。妻に対する言葉もぞんざいになり、夜遊びを始め、その果てに、同業で、遊び仲間が経営している会社に勤務していた未亡人と深い関係になった。