探偵日記

探偵日記 1月22日木曜日 雨

今朝は4時45分、タイちゃんに起こされる。外に出ると幸い雨は止んでいた。ただ、路面が濡れており臭いがしないからか、一直線に高架下へ。一週半して帰宅。10時半事務所へ。昨日の夜は阿佐ヶ谷のちゃんこ「たなか」で夕食を摂った。寒い時は鍋が一番、暖まって早々に家に帰って9時前にはベッドへ。我が家のベッドが恋しくなるなんて何だか最近は情けない。一つには早朝の散歩がプレッシャーになっている。見張り番(愚妻のこと)の作戦勝ち。

新宿・犬鳴探偵事務所 3-1

 犬鳴がまた聞く。(そんな時、ご主人はどうなさっているんですか)依頼人は、その場面を改めて思い出したのか、美しい顔を歪め「あのバカ亭主、怖がって、私と子供に下りてくれって言って、私も子供に危害を加えられると困るので下りて家に帰ったわよ。そしたら、ソバージュ女を乗せてどっかに行って、とうとうその夜は帰ってこなかった。あのバカが」と、さも悔しそうに吐き棄てる。犬鳴は(随分優しいご主人だな)と思ったが、目の前の依頼人が怖くて言葉にはできなかった。

 すぐに着手して欲しい。という依頼人の希望に沿って、早速、主たる被調査人柳原隼人と、ソバージュ牛の工藤沙織に関する素行調査を開始した。マルヒたちが勤務するK大学付属病院は外苑東通りに面して建っている。裏手にも研究室等の入る古い建物はあるが、医者や職員は玄関から出て、通りにある正門を利用する。と言う依頼人のアドバイスにより、車両班二名を、四谷三丁目方向に待機させ、徒歩尾行の調査員三名は、JR信濃町駅周辺で張り込ませた。看護婦の人相は分らないが、マルヒの写真は預かってある。
総合病院の出入は多い。外来も居れば、入院患者を見舞う人も居る。ひっきりなしに往来する人の流れの中にマルヒを認めたのは午後七時を少し回った時だった。

 何時もなら現場に出ない犬鳴だが、事務所から近いということもあって、日課の麻雀をお休みして調査に参加した。彼らが陰で、犬鳴が現場に来ることを嫌っているのも承知していたが、依頼人の夫はともかく、ソバージュのモーちゃんを一目見たくてやってきたのだ。JR信濃町駅のそばに犬鳴には忘れられない思い出の喫茶店がある。その名は「タンゲーラ」店の名前でも分るように、タンゴの曲しか流れない。かって、移転する前の店は洞窟の中のようなシックな雰囲気で、犬鳴は気に入ってよく通ったものだった。甘酸っぱい感傷に浸りながら張り込むK大学付属病院の正門に、マルヒの柳原隼人が現れた。

 写真を持って張り込んでいるほかの調査員を見ると全く反応しない。本人を目の当たりに見ても気づかないで居る。それどころか、チーフの和久田を囲んで、何が可笑しいのか大笑いしながらダベっている。犬鳴はそんな調査員らを無視して信号を渡った。マルヒは正門を出ると外苑東通りを左に歩きはじめている。すぐに車両班の横を通り過ぎ、四谷三丁目方向に進む。その頃になって徒歩尾行の三人もようやく気づき、慌てて通りの反対側を見ながら尾行に加わった。車両班も速度を落として尾いて来る。調査員をめったに怒らない犬鳴だが、若い調査員らには煙たい存在のようで、犬鳴もある程度承知している。しかし、5人の10っこの目で見ていながらマルヒを見逃している。ーーーーーーーーーーーーーーーー