探偵日記 2月12日木曜日 晴れ
昨日の祭日、山梨県甲府市まで出張した。弁護士の紹介で、新しい依頼人と面談するためであった。特急スーパーあずさで1時間半、甲府に着いて指定されたホテルのロビーへ。そこには、60代と思われる美人で雰囲気のある婦人が待っていた。小一時間で受件が成立。駅まで依頼人の車で送ってもらい、再びあずさの車中の人となって新宿へ。
今朝は携帯のアラーム目が覚める。気配を窺うがタイちゃんはまだ廊下に出てきていない。トイレに行って支度をする頃になって漸く僕の部屋の前まで来る。ところが、普段と様子が違う。散歩に行くことを余り嬉しく思っていないようだ。案の上、20分ぐらいでさっさと帰宅。何時もは(タイちゃんお家に帰ってご飯食べよう)と言って無理に連れ帰らなければなかなか帰ろうとしないのだが、家に帰って、抱っこしようとしたら(キャン)と鳴いた。何処か痛いところがあるようだ。歩き方も変だし震えている。ただ、散歩の時は元気良く歩いたし、ご飯も美味しそうに食べた。演技かな?頭の良い彼は、仮病を装い時々僕らをからかう。
新宿・犬鳴探偵事務所 5-2
分った。じゃあちょっと当ってみるよ。でもどうかな~。と言って彼と別れたが、はなっからそんなことをする気も無く、いってみればリップサービスである。それでも、その夜、歌舞伎町のクラブでN会系のヤクザと会った時聞いてみた。「三十万円位かな、でも俺は嫌だよ出所を調べられたら三年は食っちゃうから」本物のヤクザでさえ当時は怖がったものだ。このころ、警視庁は銃刀類の摘発にやっきになっていた。彼らにしても割の合わない仕事なのだ。
翌日、この頃彼とはほとんど毎日のように会っていたので。(駄目だよ、ヤクザ者も怖がってさわりたがらない)と言って不首尾に終わったことを告げ、そのことを犬鳴はすぐに忘れた。
後日談、もう四半世紀(二十五年)前のことだから書くが、その彼曰く「いやあ、ワンちゃんすげえもんだよ。夜中にぶっ放してやったら青い光がパーッと出てさ~」と興奮冷めやらぬ感じで報告してくれた。「本物が手に入んなくてさ~、改造拳銃を何とか手に入れてやったんだけど、一発目はちゃんと撃てたのに、次の弾が出ないのさ。やっぱり本物じゃあないと駄目だね」要するに、一発撃ったら銃身が焼けて使い物にならなくなった。と言っている。恐らく近所は大騒ぎになっただろう。高級住宅街で起きた発砲事件である。当然、被害者も色々調べられたに違いない。依頼人は大丈夫なのだろうか?彼に聞いてみると「あのばあさんは大丈夫。したたかだから」さらに後日談、約束の報酬は、したたかんばあさんに、(何の事?)と惚けられ、骨折り損のくたびれもうけ。となった次第。平成十四年頃だったか、彼は十億円を手にしないまま病死した。ーーーーーーーーーーーーーーーーー