探偵日記

探偵日記 3月12日木曜日 晴れ

昨日のゴルフ、隔月の第二水曜日に行われるコンペ(二水会)が何時もの「エーデルワイス」(埼玉県毛呂山町)で開催された。僕は、この超トリッキーなコースが好きでこれまで十年以上欠席したことが無い。この日は、予想とは違って、無風快晴。体調も良く、それなりに意気込んで参加した。結果は、数字的には威張れたものではなかったが、内容には満足した。というのも、今月22日に、栃木県小山市の「ひととのやCC]で行われる月例のグランドスラム(1年間の入賞者だけで戦うもの)に向けての練習試合のようなものだから、1打1打試行錯誤しながらプレーした。中でも、最終ホールの第二打、(ロングホール)スプーンで打ったショットは会心の当たりで、前の組に打ち込んでしまった。いけないことだが、同じコンペの仲間のこと、酷く怒られはしなかった。非力な僕でも理にかなったスイングをすればそこそこの距離が出るのだろう。夜は、仲間数名と阿佐ヶ谷の居酒屋で痛飲。あ~あ疲れた。

新宿・犬鳴探偵事務所 8

 依頼人も覚悟はしていたようで「ああ、そうですか」と言った後、「犬鳴さん、その手配を無くすわけにはいきませんか」と聞いてくる。普通、所轄の指名手配は1ヶ月間有効で、この間に逮捕に至らなければまた1ヶ月延長される。重大事件でなければ適当なところで解除されることもあるらしい。本事件は(風営法違反)で、さほど大きな案件ではない。したがって、総責任者を指名手配までして捜査する事件ではないはずである。各店舗に店長と呼ばれる者がいて、その上に、(社長)が居る。再三にわたる所轄の指導を無視した場合、始末書を書かされ、それでもなお、やってはいけないことをし続けて、やっと家宅捜査され責任者の逮捕に発展する。まさに今回がそれで店長とマネージャーが逮捕された。では、池袋署ではこのほか何を狙っているのだろうか。後日関係者から聞いたところによれば、この女性オーナー率いる「シクラメングループ」(以後、Sグループとする)は、山手線沿線に20店舗以上経営しており、日本最大の規模を誇っている。そして、いずれの店舗も風営法に違反し荒稼ぎしているらしい。警察は、Sグループを標的にして、他の業者に対する見せしめ的な効果を考えているのか。

 犬鳴は、高額な報酬に報いるべく次の事を進言した。(オーナー、何時までもホテル暮らしではお体にも差し支えるでしょうから、一度事情説明に出頭されたら如何ですか。私が懇意にしている警視庁本部の警部補に話をつけ、絶対に逮捕しないという約束を取り付けました。私も同行しますので)と言ったが、依頼人は頑としてノーと言う。「犬鳴さん、今私が逮捕されるわけにはいきません。そんなことになったら、グループは崩壊しますし、私は何より国税が怖いんです」ここに至って犬鳴にも大方の事情が飲み込めた。今回の家宅捜査で、Sグループ全体の給与台帳を押収されたという。そしてその数字から総売り上げを算出されれば莫大な税金を課せられるばかりでなく、場合によっては多額の脱税で刑務所送りになる危険がある。と言うのだ。なるほど、依頼人が一生逃げ回る覚悟をしている本当の理由が分った。

 依頼人からは毎日、否、一日10数回電話がかかる。今後の相談と、敵対する店舗の実態調査など、この時期、犬鳴探偵事務所はSグループの御用達探偵事務所になっていた。何しろ、ひと声ン百万円である。オーナーから声がかかると犬鳴は文字通り飛んでいった。ただ困るのはその都度ホテルが異なり、しかも、北海道から九州まで、「ああ、犬鳴さん、私今大阪のホテルに居ます。すぐに来て頂けない?」と言われ、犬鳴が承知すると、「じゃあ、新大阪に着いたら連絡下さい。その時、ホテルの名前と部屋番号を教えますから」となる。依頼人は、犬鳴にも全幅の信頼を置いていないのである。Sグループは、池袋店にガサ入れが入り、主だったものが逃亡したため全店舗の営業を閉じていた。犬鳴が初めて依頼人と会ってからまだ10日ほどしか経っていない。そんな或る日のこと、緊迫した声で「犬鳴さん、大至急仙台に来て欲しい」一昨日大阪で会ったばかりの依頼人から電話がかかった。犬鳴は、その日の内に仙台に入り、指定された部屋を訪ねた。相変わらず痩せ細って生気のない顔をしてるが、言うことは超過激である。のっけから「犬鳴さん、ある女を始末して」と言う。(どうしたんですか)と聞くと、自分たちが蜘蛛の子を散らすように逃げた後、Gという女性が乗り込んできて、閉めていたはずの店が営業を始めているという。警察の対象外の従業員を集めてほとんど翌日から開いていたらしい。驚き怒るのも頷ける。オーナーにしてみれば、わが子のように可愛いお店を乗っ取られた訳で、誰だって怒り狂うだろう。(その女性がオーナーに断りなく勝手に営業しているんですか?)果たして、そんなことが可能なのか。犬鳴には未知の世界のことで、どうにも理解できない。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー