探偵日記 2月25日水曜日 晴れ
今日は給料日。でも僕は無関係。貰うこともない代わりに支払う義務からも解放されている。しかし、今年71歳の前期高齢者とて日々のお小遣いは必要だ。麻雀もすればカラオケも歌う。そして時々、脂粉の香りも嗅ぎたい。(笑)ただ、競馬とか株等には興味が無いので大きなお金は要らない。ポケットに10万円位入っていれば幸せだからお安いものである。時々、麻雀も勝ったりする。実は昨日も5万円ほど勝った。僕のマージャンは決して下手ではないが弱い。とみんな思っているらしい。勝っても負けても態度に出さず淡々とゲームするから目立たないのかもしれない。中には、極端に変化する人が居る。不機嫌になって乱暴な口を利いたり、店の店員に八つ当たりする。それでいて、店に借金をする。昔から、博打場では胴元(雀荘)からお金を回してもらうことは恥ではない。とされている。だけど僕は今まで、アウト(店に借りること)をしたことはない。そうなる前に(じゃあラス半で)と言って、勝っても負けてもその半ちゃんでやめることにしている。そして、外に出て泣く。
新宿・犬鳴探偵事務所 6-4
Wからはそれからも色んなリクエストがあり、その都度、調査料の集金に神経を使いながら受件した。対象の企業は毎回変わるがいずれもトップで、中には清廉潔白な人物もいたが、そんな時は調査が長期化し、色んなリスクもあって、犬鳴としては有り難くない結果となる。ただ、そんなことは稀で、99パーセント以上の確立でWの思惑通りになるらしい。その昔F銀行の頭取以下数名をマルヒとして半年以上調査したことがあるが、対象者全員陽性だった。その頃Wは帝国ホテルに居続けていたから相応の収入になったのだろう。羨ましく思うときも有るが犬鳴にはとてもそんな芸当は出来ないし、また度胸も無い。
或る日の報告の際、Wに指定された銀座のクラブに報告書を届けたことがある。後で知ったのだが、その店は大企業の重役や政界関係者、売れっ子のタレント等で賑わう超の付く高級クラブだった。(Wさんに呼ばれて)と言うと隅の席に案内され、和服のホステスが接待してくれたが、眩いばかりの美人で、日頃、結構調子の良い犬鳴も気おくれし、会話も弾まなかった。犬鳴を見る彼女の目は品定めをする冷たいもので、あからさまに頭のてっぺんから足の先までじろりと鑑定された。嫌な奴だな。と思った犬鳴だが、最近、平常心で銀座で飲めるようになった犬鳴が耳にしたのは、その店も衰退し、今では安サラリーマンでも行けるキャバクラ化したらしい。どんな場合も(一人勝)し続ける企業や店は無いのだろう。
おそらく、プロ中のプロであるそのホステスは、犬鳴きを見て、(この男は客に成り得ない)と思ったのだろうが、子供の頃からおりこうさんで、免疫の無いお偉いさん達は、「私の好みよ」なんて言われたらひとたまりも無いだろう。仕組まれる場合だってあるのだ。或る大企業の創業者の妻が性質の悪いホストにひっかかり、ラブホテルで行為の一部始終をビデオに納められ、やがて夫の知るところとなり裸で追い出された。三流週刊誌の記事にもならなかったから、(夫の仕業かな)と、犬鳴は推測した。
今回のマルヒT社長は大人の判断をしたため無難に退陣し、後に、財界の要職に就いたが、そうでない人もいる。詳しくは書けないが、新聞やテレビ等マスコミの好餌にされた企業のトップや政治家は数え切れないくらい居るが、いずれも内部告発に基づき、探偵が登場し(動かぬ証拠)を掴まれた挙句に記事にされるのであって、要人と言われる人種の人達は十分注意しながら生活するべきであろう。(男というもの一旦外に出れば七人の敵あり)というが、(備えあれば憂いなし)であって、絶えず、危機管理の意識を持つ必要がある。何しろ、Wのような輩はこの世の中うじゃうじゃ居るし、好むと好まざるに関係なくこうした輩に金で雇われる、犬鳴のような(探偵)も大勢居るのだから。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー