探偵日記

探偵日記 2月24日火曜日 曇り

昨夜は久しぶりに知りあいの弁護士と食事した。彼は僕と一回り下の申年で59歳。ひと頃はよく一緒に飲んだりゴルフも良く行った。しかし聞いてみると、最近は故障がちで今年に入ってまだ1回しかプレーしていないらしい。僕はもう8回だから大きく差がついた。
今朝は5時にタイちゃんを連れて外に出る。昨日同様暖かく1時間ほど歩いて帰宅。10時、車で出勤する。

新宿・犬鳴探偵事務所 6-3

 犬鳴は、(これで充分だろう)と判断した。不倫調査なら少々証拠性が薄いがWが商売に使うのであればいいかなと思った。二人の馴れ初めや交際期間等未詳のまま報告書を作成しWの事務所を訪問した。Wは多分値切ってくるだろうな。と、思いながら。

 事務所で待っていたWは、事務員がお茶を出すまで他愛のない世間話をしながら、事務員が部屋を出るとご丁寧に鍵を掛けやっと本題に入った。何時ものことだが、Wは小心者かと思うぐらい用心深い。まさに、危機管理が徹底していると言ってよい。(会長、こんなものでどうですか)犬鳴は、どうだ。という感じで報告書を渡した。思ったより早く情報が得られたので頗る機嫌が良い。報告書には、マルヒがハイヤーを降りてホテルに入り、フロント前を素通りしてエレベーターに乗るまでと、足早に廊下を歩き素早く部屋に入る様子、7時間後、疲れた表情で部屋を出るところに加え、次に、女性の全身像、部屋に忍び入る後姿、女性の家族の姿などを秘かに撮影したものを挿入し、女性がルームサービスを受け取る場面は詳細に撮って添付してあった。タネ明かしすると、マルヒが入った後、調査員もホテルに予約を入れ、チェックインの際、何気ないふうを装いマルヒの部屋のドアが見える部屋を取ってあった。

 このホテルの各部屋のドアノブはドアの左側に付いている。したがって、ドアが開かれて、少しでも中の様子を確認したい場合、マルヒの部屋から向かって右斜めの部屋が理想である。調査員は、確保した部屋のドアを僅かに開けてビデオカメラをセットし、ルームサービスの時や二人の出入を盗撮したのである。時刻入りの写真とともに、詳細を明記した報告書を見せられれば、Tはひとたまりもないだろう。じっくりと報告書を読んだWは満足げににんまりと笑い、「ご苦労さん」と、犬鳴を労った後、「ワンちゃん、比較的簡単に掴めたようだから三つでいい」ときた。予想されたことなので犬鳴も対抗手段を考えていた。(会長、僕は昔、たった一ページの報告で3600万円貰った事があるんです。会長にとって、今回の報告はダイヤモンドの情報でしょう。僕や、うちの調査員の口止めをしなくていいんですか?)と言ってやった。何のことは無い、これからTを追い詰めようとしているWを犬鳴は脅しているのである。

 犬鳴にしてみれば、今後、Wが得るであろう悪銭の桁を知っていればこその行為である。勿論それでWと袂を分かつつもりはない。Wのほうも、長く手足のごとく使ってきた男と不用意に喧嘩をする気も無いだろう。こうした会話も総て笑いながらのものだった。Wは、思い切り不敵な表情で「分ったよワンちゃん」と言いながら、そのつもりで用意してあっただろう、五つが入った紙袋をよこした。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー