探偵日記 6月17日水曜日 曇り
今日は事務の高ちゃんがお休み。10時前に事務所に着き、習慣になっているヤクルトを飲み机に向かう。最近、犬のとてもいい話を聞き、何とか一つの物語にしたい。と考えたが、悲しいかなそんな能力の無いことを嫌というほど思い知らされている。ダラダラと書いてゆくことぐらい出来るが、探偵の話と違って物語の構成、特にクライマックスを何処に持ってくるか、また、読む人に何を伝えたいのか。一向に判らない。思い余ってプロの意見を聞くことにした。来週の月曜日に体験的参加をして、3ヶ月間12回の講義を受ける。
断っておくが、僕はプロの作家になろうなんてこれっぽっちも思っていない。ただ、読むことや書くことが大好きである。これは、思えば幼少時の環境に起因する。貧しかった我が家はラジオもテレビも無かった。勿論、終戦後の昭和20年の初めはよほどの家でなければそんなものは無かった。したがって、いきおい本を読むか、ザラ紙に何か書いて遊ぶかしかなかったのである。その他、僕は近所の古老の昔話を聞くのが好きだった。近所のガキ連とビーダマもチャンバラもして遊んだが、どちらかというと引きこもって本を読むほうを好んだ。今でも、本屋の前を素通りできない。道で美人とすれちがって、しばし立ち止まるように。
教師と教師 12
最初のページに「素行調査報告書」と表題が書いてあり、次のページに被調査人近影と書かれ妻の写真が有った。尾行調査を開始した日に着ていた洋服である。小山内は読み進みながら、内心大層驚いていた。たった一日の、それもおよそ6時間の尾行調査で、時系列に整理された文章と、スナップ写真で50ページ以上有った、コンビニで男の車に乗り換える妻、車がラブホテルから出てくるところなどなど。二人は、コンビニで大量の食料や飲料水を購入してホテルに直行。途中お茶することもなくホテルの狭い部屋で過ごしていたのだろう。小山内はページを飛ばして、最後の方にある、4、相手男性の身元に関する事項。というところをめくった。そこには氏名年齢住所等に加えて、近影も添付してあり、小山内の知っているSの精悍な顔を確認した。
犬鳴が応接室に戻ってくる。「如何でした」と聞き、返事を待っている。(間違いありません。妻と僕の良く知っている妻の元上司です)と答える。そのあと、色々と今後の展開について質疑応答をして、探偵事務所を後にした。さあどうしたものか。帰りの電車の中で小山内思い悩んだ。(事実がはっきり分ったら問答無用で離婚だ)と思っていたのに、いざとなるとなかなっ決心がつかない。探偵の犬鳴氏は、最後に、「一度だけ許したらどうですか。そりゃあ僕も貴方と同じ男だからお気持ちは良く分りますよ。別れるのは簡単で、奥さんも拒否できないでしょうし。例え裁判になってもこの報告書で負けることは無いでしょう。ただ、僕は貴方より少しばかり年上のようだから、まあ、老婆心までに言いますが、添い遂げる価値っていうのもありますよ。」と。---------------