探偵日記

探偵日記 9月8日火曜日 雨

今朝も外に出ると本降りの雨。一瞬たじろいだタイちゃんを抱いて高架下へ。狭い高架下で前方と後方から犬を連れた人がやってくる。まずいな~と思ったが、もうすっかり目の見えない彼は気付かない。ただ、犬の気配と匂いがしたのかあらぬ方向に向って右往左往した。(年寄り笑うな行く道ぞ)の喩えの通りやがて自分もああなるのだろう。絶世の美人と席を同じくしてもまったく無関心。まあ、僕に限ってそんなことは無いか。(笑)

れんげ 43

 そのあと、山本家のリビングで譲渡契約書を交わし、「もう少しごゆっくりなさって下さい」と言う山本夫人に丁寧に断って、ひかるは早々に山本家をあとにした。あんまり長居すると未練が残ってしまう。帰りは、何処をどう走ったのか分らないぐらい、途中、迷ったりして気がつくと多摩霊園の横道に居た。
山本家に人たちに見送られ玄関を出る際、居間のほうを見るとビッキーに追い掛け回されているれんげの姿が見えた。ひかるはそのまま帰るつもりだったが、夫人が、「れんげちゃん、ママとお別れなさい。」と声をかけると、もう靴を履いて玄関に立っているひかるを見て、れんげが飛びつくように走ってきた。そのれんげを夫が抱き上げて引きとめる。そのれんげに向って、「れんげ、元気でね。沢山可愛がってもらってね。」夫の腕の中でもがいているれんげの頭をなで外に出た。ドアを閉めると、れんげの激しく啼く声がした。
ひかるは、路上に停めた車の中で、誰に憚ることなく思いっきり泣いた。

いっとき、涙と一緒に、悲しみを追いやったひかるは、気持ちを切り替え自宅に向った。
いつまでもめそめそしている場合じゃあない。私にはまだまだ手のかかる子供も居るし、れんげに里親が決まったとなれば、またポチの家から新しい子が送られてくるだろう。家に着く頃にはすっかり気持ちを切り替えることが出来た。ーーーーーーーーーーーーーーーーーー