探偵日記 11月17日木曜日 小春日和
小春というのは旧暦でいうこの頃のことらしい。風が無く晴れて暖かい日を「小春日和」という。日本字の表現はまことに素晴らしいし、美しい。と、つくづく思う。そして、美しくも素敵もない僕は昨夜の深酒が祟って起き上がれない。それなのに、今日に限って、4時半に我がままタイちゃんに散歩をせがまれ、まだ暗い阿佐ヶ谷の街に彷徨い出た。11時事務所へ。
ロマンチックな恋の結末 11
隣室からマルヒの声が聞こえた。「うん、ああそう。分かった。今日は来れないのね。じゃあ明日待ってる。」携帯電話で話しているので相手の声は聞こえないが、訪問者は今夜都合が悪く明日になったようだ。ただ、何時に来るのかわからない。相手は時刻を告げたのかもしれなが、マルヒが復唱しないので見当もつかない。テレビの音が消えマルヒが部屋を出た。夕食を摂るのだろう。調査員1名が少し遅れて部屋を出る。2分後、「1階のレストランに入りました」との報告が来る。調査員らは時間差をつけてそれぞれレストランで夕食を済ませることにした。
マルヒはビールを1本飲んだ後、海老フライ定食を注文し、小一時間かけて食べ、その後何処にも寄らず部屋に戻った。チーフのNからその報告を聞き、早速依頼人に電話をかけその旨を報告した。今日はとりあえず女性との接触が無いこと、多分明日ホテルに来るだろうことなどを簡略に話した。依頼人は「ああそうですか分かりました。ご苦労様でした」と、何の感情も見せずに電話を切ったが、僕と話している間、傍に居るであろう娘に聞かせるような気配がした。部屋に戻ったマルヒはしばらくテレビを見ていたようだが、間もなく何の音もしなくなった。早々に休んだらしい。----------